吉原面番所手控



評価:★★★★

 遊郭である吉原の治安維持を司る面番所。そこで40年あまり同心として勤めてきた木島平九郎。彼は数々の難事件を解決してきたが、実はそれらの謎を解いてきたのは、かつて客と心中した人気花魁だった・・・

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 遊郭である吉原の治安維持を司る面番所。そこで隠密廻り同心として40年あまり勤めてきた木島平九郎(きじま・へいくろう)は病を得て、いま死の床にあった。

 妓楼である相模屋の楼主・新兵衛(しんべえ)を前に、過去の回想を語り出す。かつて数々の難事件を解決してきた平九郎だが、実はそれらの謎を解いてきたのは、かつて客と心中した人気花魁・夕顔(ゆうがお)だったという・・・


「一の控 薄雪」
 楼主を息子に譲って隠居した五兵衛(ごへえ)が、蔵の中で殺される。しかし蔵の周囲には雪が積もり、犯人のものと思われる足跡が存在しなかった・・・


「二の控 桜闇」
 米問屋の次男坊・清十郎(せいじゅうろう)が妓楼の一室で刺殺される。現場は人の出入りができない密室状態。その直後、花魁・空蝉(うつせみ)の死体が見つかる。二階から転落したらしい。心中が疑われたが、さらに使用人の老女の絞殺死体が発見される・・・


「三の控 炎情」
 大阪の妓楼から吉原に移ってきた花魁・乙女(おとめ)。彼女は大阪時代の恩人である花魁・早蕨(さわらび)が殺された事件の下手人を探していた。早蕨は屋内にいて銃で撃たれたのだが、現場には凶器はなく、周囲の襖にも銃の貫通孔はなかった。しかも襖は内側から心張り棒で固定されており、人の出入りは不可能だった・・・


「四の控 弔歌」
 足を負傷した花魁・夕顔は、療養のために三ノ輪の寮に入った。そこで知りあった花魁・柏木(かしわぎ)が、寮近くの小高い丘の上で死体となって見つかった。しかし死因は病によるものと判定される。葬儀が営まれることになったが、寮に呼ばれた僧侶の前に柏木の幽霊が出現する・・・ 


「五の控 幻夢」
 夕顔と親しい芸者・おくには近々祝言を挙げる予定だが、なぜか浮かない顔つき。おくには幼い頃に両親を喪っているが、実は母が父を殺めるところを見たのだという。そして直後に起こった火事で母は焼死していた・・・


 「一の控」はミステリでもおなじみの ”雪の密室” だが、「二の控」「三の控」では屋内での密室殺人が描かれる。
 橫溝正史の『本陣殺人事件』でも舞台になったが、昔ながらの日本家屋は、およそ密室にはほど遠い開放的な家屋の構造をしている。そこをなんとか出入り不能な状態に仕立て上げて密室にするために、さまざま工夫が凝らされている。その意欲と創意と努力は素晴らしいと思う。

 そして吉原・遊郭という特殊な場所、特殊な人間関係、特殊な慣習などを取り込んで、この時代この舞台ならではのミステリになっている。もちろんその中心には「花魁」という存在がある。「苦界」と呼ばれる世界で生きることを強いられた彼女たちの哀歓もまた本書の読みどころだろう。

 訳あって吉原にやってきた少女が、人気花魁・夕顔になっていくまでの成長を追う物語でもある。その途中で遭遇する事件に対して優れた洞察力を示すなど、聡明な女性として描かれるのだが、時には生きていくことに希望を失っているような言動も示す。
 そして「終章」に至ると、夕顔が起こした心中事件の真相が明らかになり、最後の最後に置かれた「付記」において、彼女の人生の根底に秘められていて心中事件の遠因となるもの知ることになる。

 花魁が探偵役というのはデビュー作『恋牡丹』とその続編『雪旅籠』と同様だが、それとは異なる切り口で遊郭ミステリを描いてる。

 本書には続巻として『うたかた 吉原面番所手控』が刊行されている。これも手元にあるので、近々読む予定。

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