孤剣の涯て



評価:★★★★

 時は戦国時代末期、大坂の陣の直前。徳川家康を呪詛した「呪い首」が発見された。そしてその現場には宮本武蔵の愛弟子の死体が。呪いをかけた者の正体を突き止めるため、武蔵は徳川・豊臣の両軍が対峙する大阪へ。
 戦国時代の終焉を告げる最後の闘いの中、武蔵は意外な ”犯人” の正体を知る・・・

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 大坂夏の陣を間近に控え、徳川・豊臣の両軍が集結しつつある頃。京の西北にある寺の門前で「呪い首」が発見される。それは家康の名が刻まれた「五霊鬼の呪詛」だった。その首に名を刻まれた者は二年以内に呪い殺されるという。

 「五霊鬼の呪詛」は代々、徳川家に祟り続けていた。家康の祖父の清康(きよやす)、家康の嫡男の信康(のぶやす)の死にも関わっていたという。

 呪い首を創り出すための「妖かし刀」は大樹寺(松平家/徳川家の菩提寺)に封印されていたが、何者かに盗み出されていた。

 宮本武蔵のもとに家康の従兄弟である水野勝成(みずの・かつなり)から使者が来る。家康へ呪いをかけた者の正体を突き止めろという。断ろうとした武蔵だったが、弟子の佐野久遠(さの・くおん)が呪詛者によって殺されたことを知り、引き受けることに。

 戦国の終わりが近づき、自分の剣術が時代遅れになりつつあることを自覚していた武蔵に、あえて後継者の名乗りを上げ、師として慕い続けてきた愛弟子が久遠だったのだ。

 呪詛した者は当然ながら豊臣方にいると思われ、武蔵は水野家家老の息子・中川三木之助(なかがわ・みきのすけ)を伴って大阪城へ潜り込むことに成功する。

 やがて始まった大坂夏の陣。闘いのさなか、武蔵は「妖かし刀」を持つ者と遭遇する。それは「鬼左京」の異名をとる坂崎直盛(さかざき・なおもり)だった・・・


 坂崎直盛は、坂崎出羽守(でわのかみ)という名でも知られる武将で、大坂城が落城する際に家康の孫である千姫を救出した(諸説あり)とされることで有名な人。

 ところが夏の陣の翌年、本田忠刻(ほんだ・ただとき:本田忠勝の孫)に再嫁しようとする千姫の行列を襲い、彼女を強奪する計画を立てていたことが発覚して断罪されてしまう。

 この事件の背景も諸説あって、「千姫を助けた者に彼女を嫁にやると家康が云ったが、後にそれを反故にされたから」とか「千姫に嫁入りを拒否されたから」とか「直盛が千姫と公家との縁談をお膳立てしたのに、それを無視して家康が勝手に嫁入り先を決めたから」とか。

 まあ「千姫のために頑張ったけど報われず、トホホな晩年を過ごした可哀想な人」というイメージを持つ人(私を含めて)が多いのではないかと思う。

 ところが本作に登場する坂崎直盛は全く異なる。剛槍・山姥(やまんば)を直刀のように操り、武蔵をして「尋常の遣い手ではない」と思わせる剣豪として登場する。

 かつて「左京亮」(さきょうのすけ)と名乗っていた頃には関ヶ原の戦いで暴れ回り、家康に「鬼左京」と呼ばれることもなった強者(つわもの)だ。
 作中、二人は何度か剣を交えるのだが、直盛は武蔵の最大のライバルとして描かれ、なおかつ「妖かし刀」をも所持していたことから、最大の ”容疑者” と見なされる。


 ストーリーは 大阪冬の陣 → 夏の陣 → 大阪城落城 へと進行していくが、武蔵はその闘いの中で呪詛者の正体へと迫っていくことになる。
 合戦シーンに加え、忍者の登場や新型鉄砲を駆使する謎の集団の襲撃など派手なアクションシーンあり、もちろん剣戟シーンもある。真相に至る一連の謎解きもあり、ミステリとしても読みどころがある。

 坂崎直盛の過去も掘り下げられ、武蔵との決着が描かれるラストシーンに至ると、今まで抱いていた直盛のイメージがすっかり書き換えられたことを知るだろう。
 時代小説好きな人はもちろん、ミステリ好きな人も楽しめる一冊になっていると思う。

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