聖女の論理、探偵の原罪



評価:★★★★

 15年前、信者の集団自殺事件を起こした新興宗教団体〈科学の絆〉。現在の教主は聖女と呼ばれる女性・聖天祢。
 かつて高校生探偵として名を馳せた新道寺浩平は金のために教団へ潜入するが見破られ、逆に雇われることになってしまう。
 浩平は信者たちの巻き込まれた事件を天祢が次々と解決していく姿を見ることになるのだが・・・

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 15年前、信者の集団自殺事件を起こした新興宗教団体〈科学の絆〉。教祖は事件の中で死亡し、教主の座はその娘が継いだ。聖女と呼ばれ、現在20歳になる聖天祢(ひじり・あまね)だ。

 かつて高校生探偵として名を馳せた新道寺浩平(しんどうじ・こうへい)は、今ではすっかり落ちぶれていた。浩平が探偵から引退し、荒れた生活に入ってしまったのには理由がある。それは作中で明かされていくのだが、タイトルにある『探偵の原罪』という言葉が彼には重くのしかかっている。

 浩平はスキャンダルを狙うマスコミに金で釣られて教団への潜入を図るが、たちまち見破られてしまう。しかしなぜか天祢は彼を雇うことを決める。

 天祢は〈万象眼〉(ばんしょうがん)と呼ばれる能力を持ち、信者が持ち込んでくる事件を次々に解決していく。しかしそれは超能力などではなく、彼女が卓越した推理能力を持っていることを浩平は知る。
 いずれも科学的に不可能な状況下で起こる殺人事件なのだが、〈科学の絆〉は「正しい科学知識の啓蒙」をも教義に持つという変わった団体。だから、いわゆる「疑似科学」や「オカルト」を排し、天祢の推理もその前提で進んでいく。


「第1章 〈夏への扉〉トンネル効果事件」

 信者の一人で、金属加工会社を経営する池森茂の死体が社長室で発見された。青酸カリの服用による毒死だった。部屋に窓はなく、唯一の出入り口であるドアは直径10cmもの金属製の六角ボルトが「閂」のように取り付けられ、開閉できない状態だった。
 社長室の奥の壁には茂自身が〈夏への扉〉と名付けた、ドアの絵が描かれていたが、もちろんそこからの出入りはできない。警察は自殺と判断するのだが・・・


「第2章 氷結魔法事件」

 〈科学の絆〉への喜捨(お布施)額の上位7人による〈七星会〉の会合が開かれた。場所は喜捨額一位の福原憲介(のりすけ)が住む高級タワーマンション。最上階フロアすべてが彼の所有だ。
 パーティーの後には参加者全員がそこに宿泊したが、その翌朝に福原の死体が発見される。身体の芯まで凍り付いた状態で・・・


「第3章 量子テレポーテーションの殺人」

 かつて〈科学の絆〉に参加していた科学者・浜松は教団を脱退し、新組織「ウラノス創研」を設立した。その浜松が「巨視的量子テレポーテーション技術」(『ドラえもん』のどこでもドアや『スタートレック』の転送みたいなもの)を完成したという。天祢に対してその発表会への招待状を送ってきた。
 デモ実験はステージの両端に置かれた二つのボックス間で人間が移動するというもの。下手側のボックスに入った浜松は姿を消し、上手側のボックス内に現れた。しかし彼はナイフで刺された死体と化していた・・・


 以上三つの事件は天祢の推理によって解決、犯人も明らかになる。警察内部にも熱狂的な〈科学の絆〉信者がいて、捜査情報を漏らしてくれたり、天祢の調査に便宜を図ってくれたり(おいおい)。

 彼女の推理をサポートするために必要な設定なのだろうが、警察内部がそんな状態になっているというのは、読んでいてあまり気持ちがいいものではない。

 天祢と行動を共にすることになった浩平だが、探偵としての能力がすっかり錆びついているようで頓珍漢な推理を繰り返し、結局のところ彼女にとってのワトソン役にしかならず、天祢の活躍を横で見ているだけといういささかトホホな状況に置かれることに。


 「最終章 聖女の原罪、探偵の論理」では、天祢は15年前の教団で起こった集団自殺から父の死へと至る事件に向き合うことになる。しかし彼女の推理が導き出した「真相」は、彼女自身を苦しめるものであった。

 そんな天祢の姿を見た浩平は、もう一度探偵として立ち上がることを決める。15年前から始まる数々の事件を再検討していくのだが・・・


 文庫で約540ページと長いけれど、事件を通じて絆を深めていく主役二人のキャラが好ましく、読みやすい文章もあってすいすい進む。楽しい読書の時間を過ごせるだろう。

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