ストーンサークルの殺人



評価:★★★★☆

 英国カンブリア州で起こった連続殺人。高齢男性をストーンサークル内で焼き殺すという残忍な犯行を繰り返す犯人は、犠牲者の一人の体に ”ある人物” の名を刻んでいた。
 それは『ワシントン・ポー』。停職処分中の刑事だった。ポーは現場に呼び戻され、連続殺人犯の捜査に加わるが・・・

 2019年英国推理作家協会賞最優秀長編賞受賞作にして、刑事ワシントン・ポーと分析官ティリーを主人公とするシリーズの第一作。

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 英国カンブリア州に点在するストーンサークルで、次々と焼死体が見つかる。いずれも社会的地位が高く裕福な高齢男性だった。遺体は損壊され、燃料をかけて燃やし尽くすという残忍な方法から、犯人は「イモレーション(生け贄として火あぶりにする)・マン」と呼ばれた。

 その三番目の被害者の体には、警官の名が刻まれていた。それは『ワシントン・ポー』。国家犯罪対策庁の重大犯罪分析課所属の刑事だった。しかしポーは不祥事を起こして停職処分中だった。ちなみに彼の飼っている犬の名は ”エドガー” だったりする(笑)。

 ポー自身には身に覚えがないものの犯人の標的だと目されたため、彼は停職処分を解かれた。同時に降格され、かつての部下だったステファニー・フリン警部の下で、刑事として「イモレーション・マン」捜査に加わることになった。
 しかし犯行は続き、新たな死体が発見されていく・・・


 主人公のポーは、警官としての信念と自らの正義感のために、時に ”やりすぎる” こともあるという、いわば ”はみ出し刑事”。停職処分を受けたのもそれが原因だ。

 現場復帰は果たしたものの、かつての部下は上司となり、上層部にはポーに対して組織からの追い出しを狙う者もいる。

 そんな四面楚歌の状態の中にあって、数少ない味方となるのが新米女性分析官のティリー・ブラッドショー。天才的な数理解析能力を持つが、その反面、他者の感情を慮ることができず、人付き合いを苦手とする。職場でも悪意ある揶揄いの対象になっていた。

 しかしその場面にポーが出くわし、”いじめっ子” たちを一喝したことからポーに対して心を開き、最大にして最強の協力者となる。

 ハリー・ポッターのような野暮ったい丸眼鏡をしていて、まともな化粧もせず服装にも気を使わない。どこに行くにもノートPCを複数台持ち歩き、いつもWi-Fiを探している。そしてサブカル大好きオタクでもある。

 しかし作中でポーと共にパーティーに参加するシーンがあるのだが、きちんとドレスアップすると男どもが何人も振り返るので、典型的な「メガネっ娘」属性の美人なのだろう。

 イモレーション・マンが標的にする者たちに共通するミッシング・リンクがつかめず、捜査は難航する。

 しかしポーの優れた直感力をもとにティリーが膨大なデータを処理し、その結果からまたポーが新たな推論を立て、それをもとにティリーが・・・という、二人の絶妙なコンビネーションが、薄紙を少しずつ剥がすように、事件の背景を徐々に明らかにしていく。山積みの干し草の中に隠れた一本の針を探すような作業だが、ポーとティリーは着実に犯人へと迫っていく。

 文庫で約570ページという大部だが、中だるみすることなく、どんどんページをめくらせる。私はどちらかというと翻訳物(翻訳調の文章)は苦手なのだが、本書のリーダビリティは抜群で、びっくりするほどすいすい読める。

 主役二人のキャラ立ちが素晴らしいこともあるのだが、全編にわたってサスペンスが途切れないことも大きいだろう。着々と犯行を続けるイモレーション・マンが、被害者の体にポーの名を刻んだのはなぜか? それに加えてポーに対して敵対的で、あわよくば失脚させたい上層部は、彼の捜査に対して非協力的な姿勢を隠さない。

 高度な知能を持ち証拠をほとんど残さない狡猾な犯人と、周囲が敵だらけのポーとの対決は、大きな緊張感を保ったまま終盤戦に突入する。

 あまり書くとネタバレになるのだがこれくらいはいいかな。物語後半の局面は二転三転するのだが、「そこまでやるか」と驚くくらい徹底しており、最後まで楽しませてくれるとだけ書いておこう。

 あと「ワシントン」という名は英語圏でも珍しいようで、ポー自身もその由来を知らなかったのだが、本作の中で ”命名の理由” を知らされる場面がある。これにもなかなかエグい裏事情があるのだけど、それも読んでのお楽しみだろう。

 本作はシリーズ化されていて、現在は第六作『デスチェアの殺人』まで邦訳されている。いま第二作『ブラックサマーの殺人』を読み終わったばかりなのだが、これも本作に負けずに面白い。あと四作、しばらく楽しめそうなシリーズだ。

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