十三夜の焔



評価:★★★★

 天明4年(1784年)、江戸の治安を司る御先手弓組番方・幣原喬十郎は18歳。5月の十三夜の日、喬十郎は男女の刺殺体を発見する。その場には匕首を手にした若い男が。その男は大物盗人「大呪の代之助」一味の千吉だった。
 正義感に燃える喬十郎、過去を隠して表の世界で大成していく千吉。二人は終生の敵として闘い続けていく・・・

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 中短編全5作からなる連作集。これは二人の男の、数十年にわたる ”闘い” の記録である。

「十三夜の邂逅」

 江戸城各門の警備、将軍外出時の警護、そして市中見回りを務める御先手組(おさきてぐみ)。その弓組番方を勤める幣原喬十郎(しではら・きょうじゅうろう)は、家督を継いだばかりの18歳。時に天明4年(1784年)。
 5月の十三夜の晩、喬十郎は路上で男女の刺殺体を発見する。その場には匕首(あいくち:短刀の一種)を手にした若い男が。その男は大物盗人「大呪の代之助」一味の千吉(せんきち)だった。なぜか千吉は涙を流していて、喬十郎の前から逃げ去ってしまう。
 探索を続ける喬十郎は代之助一味の居場所を突き止めたが・・・

「長谷川平蔵の罪」

 寛政6年(1794年)、喬十郎は28歳となり、弓組番頭を勤めている。志津(しづ)という妻を迎え、4歳の娘・志保(しほ)も授かった。
 銭相場がらみの事件が立て続けに起き、捜査に当たった喬十郎は新参の両替商・銀字屋利兵衛(ぎんじや・りへえ)という男に出会い、驚愕する。彼こそ、かつての千吉だったのだ・・・


 以下、「悪の絵図」「政(まつりごと)と謀(はかりごと)」と続く物語では、二人の人生が交差していく場面が描かれてていく。利兵衛の過去を暴き、捕縛しようとする喬十郎だが、なかなか決め手を掴むことができない。

 時は流れ、二人とも妻子を得て生活が変化していく。奇しくも、喬十郎の娘・志保と利兵衛の娘・りんは同い年でもあった。

 喬十郎は浮き沈みはあったが出世の階段を上り、利兵衛は商売に打ち込んで銀字屋を江戸でも有数の店へと成長させていく。
 年齢を重ね、家族を愛し、さらに自らの力で栄達していく二人の人生は、奇妙な相似形を描いているようにも思えてくる。

 だが喬十郎は利兵衛を捕縛することを諦めないし、利兵衛もまた反撃の機会を窺い続ける。そんな中で、二人の最初の出会いの場で起こった男女の刺殺事件の真相が少しずつ明らかになっていく。

 そしてそれと比例するように、当初は不倶戴天の敵同士だったはずの二人の関係が、次第に変化していくところが本書最大の読みどころだろう。

 エピローグである「余焔」では、そんな二人の晩年が描かれる。50年近くの人生を伴走してきた二人ならではの、静かな、そして感動的なラストが胸を打つ。

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