評価:★★★★☆
街としての機能をすべて地下に納めた実験都市『WANOKUNI』。そのオープニングセレモニー当日、巨大地震が襲い、地下五階の最下層に女性が一人だけ取り残されてしまう。彼女は「見えない・聞こえない・話せない」という三つの障がいを抱えていた。
ドローン操縦士のハルオは、災害救助用ドローンを遠隔操縦して彼女を発見し、安全地帯まで誘導するという前代未聞のミッションに取り組むことに。地下では浸水が始まり、タイムリミットは6時間。
しかし必死の救助作業が続く中、一つの疑問が持ち上がってくる・・・
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主人公・高木春生(たかぎ・はるお:ハルオ)は、ドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業『タラリア』で働いている。仕事はドローン操縦士。
街としての機能をすべて地下に納めた実験都市『WANOKUNI』が完成し、オープニングセレモニーが行われる。『タラリア』もその運営に関わっていたので、ハルオは同僚たちとともに『WANOKUNI』へとやってきた。
障がい者も健常者も分け隔てなく生活できるバリアフリーな都市でもあることを謳っている『WANOKUNI』には、多数の障がい者も招待されていた。
その代表格なのが中川博美(なかがわ・ひろみ)という女性。「見えない・聞こえない・話せない」という三つの障がいを抱えながらも、人気YouTuber として自らの生活を積極的に発信し、多数のフォロワーを集めていた。
その代表格なのが中川博美(なかがわ・ひろみ)という女性。「見えない・聞こえない・話せない」という三つの障がいを抱えながらも、人気YouTuber として自らの生活を積極的に発信し、多数のフォロワーを集めていた。
しかし開会行事のさなか、巨大地震が『WANOKUNI』を襲う。ほとんどの住民・参加者は避難できたが、地下五階の最下層に中川博美が一人だけ取り残されてしまう。さらに浸水も発生し、6時間以内に救出しないと彼女は溺死してしまう。
ドローン操縦士のハルオは、災害救助用ドローンを駆使して彼女を発見し、タイムリミット以内に安全地帯まで誘導するという前代未聞のミッションに取り組むことになった。
ハルオの操縦するドローンは首尾良く中川博美の発見に成功し、誘導が始まる。彼女の行く手には多くの困難やアクシデントが待ち受けていたが、なんとかクリアしつつ安全地帯へ向かい始める。しかし彼女の行動をモニターしている救助チームの中に、ある疑問が持ち上がってくるのだった・・・
主人公のハルオは、小学生の頃に兄を水難事故で喪うというトラウマを抱えている。それが原因で母親は精神的に不安定になってしまった。だからこそ、今回の災害救助ミッションには思い入れを以て立ち向かっていく。
ヒロイン的立ち位置にいるのは韮沢粟緒(にらさわ・あお)。ハルオの高校時代の同級生で陸上部に所属していたが、一家で交通事故に遭って父親が死亡、母親は心を病み、妹は失語症に。自身も足を負傷して競技を断念するというなかなか波乱の人生を送ってきた。
高校卒業後、数年ぶりに再会した二人は、ともに『WANOKUNI』災害に巻き込まれていくことになる。
三重の障がいを抱えた中川博美の救出には、いくつもの困難が待ち構えている。
まず、地下五階まではドローンを操縦するための電波が直接には届かないという根本的な問題がある。
さらに、たとえ彼女を発見しても、どうやって意思の疎通を図るか?とか、どうやって誘導したらいいのか?とか、進路上に障害物があったらどう対処させたらいいのか?など、難問は山積みだ。
それらに立ち向かうは、ハルオをはじめとする『タラリア』の同僚たちと消防隊の混成チーム。中でもハルオが操縦するドローンを技術面からサポートする我聞庸一(がもん・よういち)は頼もしい相棒だ。
彼らが救助に伴う困難の数々をひとつひとつクリアしていく過程も本書の読みどころのひとつだろう。
彼らが救助に伴う困難の数々をひとつひとつクリアしていく過程も本書の読みどころのひとつだろう。
タイトルの『アリアドネ』はギリシャ神話に登場する女性の名だ。英雄テーセウスに糸の玉を渡し、彼がクレタ島の迷宮を脱出する手助けをしたという。
本書では、ハルオが操縦するドローンが『アリアドネ』と命名されている。災害救助に特化して設計された最新型ドローンだからだ。
上にも書いたが、中川博美を誘導していくうちに、救助チームの中に ”ある疑問” が生まれてくる。これが本書のミステリ要素として終盤に行くにつれてクローズアップされていく。
さらに、地下の災害現場の状況も刻一刻と悪化しており、終盤ではハルオ自身も命がけの作業に飛び込んでいくことになる。
本書の最も特筆すべき点は、人命救助というミッションのクライマックスと、ミステリ的な ”ある疑問” の解明とが不可分に一体化しているところだろう。
ラストシーンですべてが決着した瞬間、そこで巻き起こるのは大いなる感動だ。こんな物語は読んだことがない。
ハラハラドキドキの後は感涙にむせび、そしてミステリファンも満足できるという傑作スーパー・エンタメだ。

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