星くずの殺人



評価:★★★☆

 20XX年。日本初の格安宇宙旅行が開始された。添乗員兼副機長の土師は抽選で選ばれた6人の乗客とともに宇宙往還シャトルで宇宙ホテル「星くず」に向かう。しかし到着早々に機長の首吊り死体が発見され、地上との通信が遮断されてしまう。そして殺人の連鎖が始まる・・・

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 日本企業が建設した宇宙ホテル「星くず」は全長240m、直径120m。50階建てのビルに相当する大きさだ。24基の客室モジュール、10基の従業員用モジュールに加え、娯楽施設や企業の研究室などを併せ持つ複合施設でもある。本格稼働前なので現在常駐しているのはホテルスタッフのみ。

 地球からのツアーを担当するのはベンチャークルーズ社。その社員である土師穗希(はせ・ほまれ)は宇宙往還シャトル「HOPE!!号」の副機長と添乗員を兼任している。

 記念すべき第一回ツアーの参加者は6名。抽選で2000倍の倍率を突破した5人は飲食店社員の宮原英梨(みやはら・えり)、元不動産業者の政木敬吾(まさき・けいご)、フリーコンサルタントの山口肇(やまぐち・はじめ)、清掃業者の澤田直樹(さわだ・なおき)、介護職の島津紺(しまづ・こん)。みな3000万円という大金を投じてツアーに参加した。

 そして一人分だけ用意された無料枠を射止めたのは女子高生の真田周(さなだ・あまね)だ。ちなみに文庫版表紙のイラストは彼女だろう。

 機長の伊東(いとう)を含めた総勢8人は無事に「星くず」へ到着する。しかしその直後、「星くず」の倉庫内で伊東の死体が発見される。遺体の状況は首吊りとしか思えないが、果たして無重力の中で首吊りはできるのか? 何者かによる他殺ではないのか?

 ホテルスタッフたちは皆、その行動が終始モニターされていたのでアリバイがあった。犯行が可能なのは「HOPE!!号」で到着したメンバーのみ。

 さらに外部への通信が遮断され、地上と連絡を取ることができなくなってしまう。ここに至り、身の危険を感じたホテルスタッフたちは勝手に脱出ポッドに乗り込んで地球へ降下してしまう。

 土師たちも決断を迫られるが、地球へ帰ろうにもシャトルやポッドに破壊工作がされている可能性もある。犯人を突き止めないと脱出もできない。

 しかしそんな中でも、殺人の連鎖は続いていく・・・

 無重力の中での首吊りという不可解状況もあるが、そもそもツアーのメンバーは抽選で選ばれた者ばかり。この日まで互いに面識がなかった相手を殺していく動機も大きな謎。

 さらに、ストーリーが進むにつれて土師を含めた各人の過去やツアーに参加した理由なども明らかになっていく。3000万円という決して安くはない代償を払っても宇宙へ行きたいと願ったのななぜか。好奇心だけに収まらない、それぞれの生き方や価値観に関わる事情が明かされ、物語に厚みを加えていく。もちろん、そこには伏線も潜んでいるが。


 読者は、終盤で明らかになる真犯人の名前よりも、犯行に至った動機のほうに意外性と驚きを感じるだろう。

 宇宙空間ならではの特性を活かした犯行だが、遙かな高みから地球を見下ろせる場所だからこそ起こった犯罪なのかも知れない。


 作者は『老虎残夢』で江戸川乱歩章を受賞してデビュー、本書は二作目だ。南宋時代の中国を舞台にした特殊設定の武侠ミステリだった前作から、打って変わって近未来の宇宙での事件。作者の引き出しの多さが感じられる。


 第三作『蝋燭は燃えているか』は本作と同一世界のようで、本作のメインキャラの一人が再登場するらしい。これも10月に文庫化されるようなので、今から楽しみだ。

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