富士の裾野に建つ豪邸・名琅荘。そこでは20年前に凄惨な事件が起こっていた。
実業家・篠崎慎吾は名琅荘を手に入れ、新たに旅館として開業しようと計画していた。しかしそのお披露目会の矢先に初代オーナーの孫・古館辰人の死体が見つかり、続けて密室内で殺人が起こる。
屋敷内には ”抜け穴” や ”どんでん返し” が数多く仕掛けられていて「迷路荘」とも呼ばれる豪邸を舞台にした事件に金田一耕助が挑む。
実業家・篠崎慎吾は名琅荘を手に入れ、新たに旅館として開業しようと計画していた。しかしそのお披露目会の矢先に初代オーナーの孫・古館辰人の死体が見つかり、続けて密室内で殺人が起こる。
屋敷内には ”抜け穴” や ”どんでん返し” が数多く仕掛けられていて「迷路荘」とも呼ばれる豪邸を舞台にした事件に金田一耕助が挑む。
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明治の権臣の一人、古館種人(ふるだて・たねんど)伯爵が富士の裾野に建設した名琅(めいろう)荘。明治維新の頃に数多くの粛正や暗殺を目の当たりにした伯爵は、自らの命を護るため、名琅荘に多くの ”抜け穴” や ”どんでん返し” 等の仕掛けを施したが、それによって「迷路荘」と呼ばれることにもなっていた。
しかし息子の一人(かずんど)伯爵の代になると、父の遺産はほとんど使い潰され、残るは名琅荘のみとなっていた。最初の妻を喪った一人伯爵は48歳のときに27歳年下の加奈子(かなこ)を後妻に迎えた。
一人と加奈子は名琅荘へ移り住んだが、そこでは加奈子の遠縁の青年・尾形静馬(おがた・しずま)が働いていた。そして一人は、加奈子が静馬と不倫の関係にあるのではないかと疑い始めた。
昭和5年、嫉妬に狂った一人はついに行動を起こす。日本刀で加奈子を斬殺、静馬の左腕を切り落とした。しかし現場には一人の遺体も残されていたことから、静馬が反撃して刀を奪い、逆に一人を斬り殺したものと思われた。
そして静馬は姿を消した。血の跡をたどると、名琅荘の裏手にある山の洞窟へと続いていた。洞窟は奥深く、警察の捜索でも静馬は発見できなかったが、彼の生存説は根強く残ることになる。そして名琅荘は一人伯爵の先妻の子・辰人(たつんど)が相続することになった。
しかし太平洋戦争が終わった時には名琅荘さえも借金の抵当に入り、辰人は文字通り一文無しになっていた。その名琅荘を手に入れたのは実業家の篠崎慎吾(しのざき・しんご)だった。彼はそこを新たに旅館として開業しようとしていた。
名琅荘の入手に当たって古館辰人と面識を得た慎吾は、彼の妻・倭文子(しずこ)を知る。才色兼備の倭文子は慎吾の求めで彼の商談を手伝うようになり、やがて二人は不倫関係になった。辰人もこれを認めて倭文子と離婚、彼女は正式に慎吾の妻となった。その際、辰人に対しては莫大な代償が支払われたという・・・
華族が建てた豪邸、三代にわたる血の系譜、過去の凄惨な事件、巨大な地下空間に消えた男、そして愛と憎悪が渦巻くドロドロの人間関係・・・
いかにも横溝正史らしいトンデモナイ舞台立て(褒めてます)で、毎度のことながら唸ってしまうくらい見事な設定だ。
そして昭和25年。名琅荘に古館辰人元伯爵と元夫人・倭文子、及びその親類たちを集めて、旅館としての新装開業前のお披露目会が開かれることになった。だがそこに、”真野信也” と名乗る人物が現れた。彼は慎吾に招かれたと称していたがそんな事実はなかった。さらに、宿泊するはずの部屋から姿を消してしまう。どうやら屋敷内につくられた抜け穴を通して逃げたらしい。気になるのは、真野信也という人物は左腕が肩のところから失われていたということだ。
なんらかの事件の予兆を感じとった慎吾は、旧知の風間俊六(かざま・しゅんろく)を通して金田一耕助に依頼した。そして金田一が名琅荘を訪れるところから本編の物語は始まる。
うーん、ここまでけっこう長く書いてしまったが、文庫では20ページを越えたあたりで金田一耕助が登場するので、冒頭の少ないページ内に数多の因縁を詰め込んだオープニングと云えるだろう。
金田一耕助が到着して早々、古館辰人の死体が馬車を納めた倉庫の中から発見される。しかし事件はそこで終わらず、招待客の一人が密室内で殺害され、さらに殺人の連鎖が続いていく。同時に、左腕のない男も出没を繰り返し、事態は混迷していく・・・
密室トリックについては、ミステリを読み慣れた人なら簡単にネタがわかるものだが、もちろんそれだけでは犯人に到達できない。
金田一耕助は、あまり激しい感情を表に出すことがないキャラだと思っているが、本作の終盤では犯人に対する嫌悪感をむき出しにするのがちょっと意外だ。それくらい犯人の動機というか人間性が腹に据えかねたのだろう。
wiki によると、本作は1956年に短編『迷路荘の怪人』として発表され、59年には同題の中編として改稿された。さらに加筆・修正を施した後、75年に長編『迷路荘の惨劇』として刊行されている。文庫では500ページ近い作品だが、作中時間(昭和25年の事件が発生してから解決するまで)が意外と短いのは、元が短編だったからだろう。
完成するまで20年近くかかった作品で、そのぶん入念に書き込みされた印象を受ける。ちょっとくどいかなと思う部分もなくはないが(笑)。
1970年代は横溝ブーム真っ只中。その人気を受けて、齢70を越えてなお大長編を4作(『仮面舞踏会』、本作、『病院坂の首縊りの家』、『悪霊島』)も完成させている。巨匠の掉尾を飾る長編群のひとつ、心して読ませていただいた。

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