コルヌトピア



評価:★★★

 2084年、植物の生理機能を演算機能として活用するフロラ技術が実用化された世界。東京は環状の緑地帯に囲まれた計算資源都市となった。しかしその一部で火災事故が発生する。
 主人公・砂山淵彦は、調査の過程で天才植物学者・折口鶲と出会い、原因究明に当たるのだが・・・

 第5回(2017年)ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。

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 表題作『コルヌトピア』の他に、同じ世界のその後を描いた中編『蒼転移』を併録してある。


 舞台は、植物の環境応答メカニズムを演算機能として活用するフロラ技術が実用化された近未来。

 2049年、大田区を震源に起こったマグニチュード7.8の直下型地震によって大損害を被った東京は、復興の過程で23区部の周囲をフロラ技術を応用した環状緑地帯として整備、巨大な計算資源として活用するようになっていた。
 そして2084年、その緑地帯の一部で火災事故が発生した。厳重な防災対策が取られていたにもかかわらず起こった事態に、調査が始まる。

 主人公の砂山淵彦(すなやま・ふちひこ)は27歳。緑地帯で微生物発電の試験運用をするフロラ企業に勤めており、今回の調査に参加することになる。

 そこで彼が出会ったのが、折口鶲(おりくち・ひたき:ヒタキ)。28歳の女性で、理学博士号を取ったばかりの国立環境情報学研究所の研究員。フロラ技術の開発者の一人で天才植物学者と呼ばれていた。砂山はヒタキとコンビを組んで調査を進めることになる。

 砂山は大学1年の頃、体調を崩して関東北部の高原地帯で二ヶ月の療養生活を送ったことがあった。そこで出会ったのが高校2年の藤袴嗣実(ふじばかま・つぐみ:ツグミ)。

 その後2人の関係は絶えたが、調査を進める砂山のもとに、8年ぶりにツグミからメッセージが届く。彼と久々の再会を果たした砂山だったが、その言動から緑地帯で起こった火災事故に、ツグミが何らかの関わりがあるのではないかと疑い始める・・・


 まず、植物を情報処理資源として使うという発想が面白い。序盤はフロラ技術の開発経緯から始まり、そんな「IFの技術」がもたらした世界の変容、新たな日常がSFとしてのビジョンで描写されていく。これがなかなか新鮮だ。

 古代ギリシア・ローマ世界において、食べ物と豊かさの象徴として用いられた角のイメージを表すラテン語「コルヌ・コピエ」(「豊穣の角」を意味する)。

 本書のタイトル『コルヌトピア』はそれをもじった造語らしい。たぶん「コルヌ・コピエ」と「ユートピア」を合わせたものだろう。
 本書の中で、人間は情報処理資源としてのフロラにアクセスするための ”アンテナ” 状のものを首筋に装着して生活している。それが ”角” にも見えることから「コルヌ・コピエ」(=『コルヌトピア』)に結びつくのだろう。

 フロラ技術が支える社会のありようもも読みどころなのだろうが、主役コンビのキャラもいい。

 砂山は幼少時を海外で暮らしたせいか、日本の生活に今ひとつ馴染めなかったが、現在は日常生活に支障なく暮らす、至って穏健で堅実な人物。

 ヒタキは天才と呼ばれる人間にありがちな、奇矯なところやエキセントリックなところは欠片もない。しかし自ら築いてきた業績の裏打ちもあり、凜とした雰囲気を漂わせた女性として描かれる。

 この二人は読者には好意的に受け入れられるキャラクターだろう。協力して事件の真相に迫っていくうち信頼関係が深まっていくのはある意味鉄板の展開だ。将来的には恋愛関係まで進みそうな可能性も漂わせるが、残念ながら本作は文庫で170ページほどの中編なので、そこまで行く前に物語が完結してしまうのはちょっと残念だ(笑)。


 併録されている中編「蒼転移」は、表題作の十数年後の世界を描いたもの。

 環状緑地帯の整備が進んだ東京では、それに伴って鳥類の種類・数ともに増加してきた。動物科学を専攻する大学生・上村アンナは、レポートの題材として急増しているムクドリを選んだ。
 アンナは指導教授から紹介された上級生、山野今日子(やまの・きょうこ)と東山京太郎(ひがしやま・きょうたろう)の協力を得てムクドリの観察を始めるのだが・・・
 砂山もヒタキもちょい役だがしっかり登場してくる。二人の仲がどうなっているのかは読んでのお楽しみかな。

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