評価:★★★☆
東京・湾岸エリアのカジノ特区で興行している少女サーカス。しかし花形の空中ブランコ乗りである涙海が練習中に落下し負傷する。身代わりとして双子の妹・愛涙が舞台に立つことになるのだが、何者かが彼女を狙い始める・・・
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未曾有の大地震が東京を襲った。湾岸エリアには復興名目でカジノ特区が設立され、同時に客寄せのために少女だけのサーカス団がつくられた。
そして20年。今日も少女曲芸子(パフォーマー)たちによって舞台の幕があがる。彼女らはみな、古き文学者の名を ”ステージネーム” として名乗っている。
主人公兼語り手は片岡愛涙(かたおか・える)。19歳になったばかりの大学一年生だ。
彼女の双子の姉・涙海(るう)は中学卒業後、高倍率を突破して養成所に入り、二年後の卒業時には、一握りの者しかなれない曲芸子の座を掴んだ。現在二年目、ステージネームは「ブランコ乗りのサン=テグジュペリ」だ。
愛涙は公立高校に進んだが、涙海のプライベートな練習では常にパートナーを務めてきた。しかしその練習中に涙海が落下事故を起こし、足を負傷してしまう。
そして愛涙は、密かに涙海と入れ替わって舞台に立つことになる。涙海が戻ってくるまで、その「場所」を護るために。
サーカスの団員たちは同じ養成所を卒業した仲間であり、理解者でもあるが、同時に激しい嫉妬と敵意を燃やすライバルでもあり、悪意による嫌がらせも後を絶たない。そんなところに放り込まれた愛涙の苦闘が描かれていく。
いつ正体がバレるかとビクビクしながらステージをこなす愛涙の前に現れたのは、カジノのディーラーを努める青年・アンソニー。彼は愛涙に謎の警告を投げかける。
「このシーズン、ブランコ乗りは命まで狙われるかも知れない」
そしてその言葉どおり、愛涙は何者かに拉致されてしまう・・・
物語は、図らずも立場を交換することになってしまった双子の姉妹から始まる。
姉の涙海から言い出したことは云え、曲芸子として成長していく愛涙の姿に心穏やかではいられない。二人の葛藤は序盤から終盤までストーリーの底に存在し続ける。
そして、他の曲芸子たちも強烈な個性の持ち主ばかり。中でも「歌姫アンデルセン」と「猛獣使いのカフカ」は、それぞれ一章を割いて生い立ちから現在までの物語が綴られていき、そこに「パントマイムのチャペック」が絡んでいく。
サーカスを巡る陰謀の解明がミステリ要素として存在するのだけど、物語全体としてはそれは脇筋でしかない。作者がメインに描きたかったのは、このサーカスの舞台に命を賭ける少女たちの群像劇だったのだろう。
そしてアンソニー。カジノのディーラーなのだが、要所要所で愛涙の前に現れ、やがて彼女の運命に大きく関わってくる。
冒頭で立場を交換することになった双子の姉妹は、物語を通じてそれぞれが置かれた逆境を乗り越えるべく成長していき、終盤では自分の人生について新たな決断を下していく。かなり歯ごたえのある青春小説になっていると思う。
本書には姉妹編として『今宵、嘘つきたちは影の幕をあげる』という長編が同時刊行されている。この文章を書いている時点で読み終わっているのだが、こちらは本書の20年前、少女サーカス創生期のエピソードが綴られている。時系列的には本書より前の話だが、『光の幕』→『影の幕』の順に読むほうが、より楽しめると思う。
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