天久鷹央の推理カルテ 完全版



評価:★★★☆

 天久鷹央。27歳にして天医会総合病院・統括診断部の部長を務める天才医師。明晰な頭脳と圧倒的な知識であらゆる疾患を、そしてあらゆる謎を看破する。
 そんな彼女の周囲で起こる怪事件の数々を描く医療ミステリ。

 アニメ化に続いてドラマ化もされた人気ミステリ・シリーズ、その第一巻。

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 天久鷹央(あめく・たかお)は27歳。童顔で小柄なため高校生に間違えられることもあるが、彼女はれっきとした医師で、天医会総合病院の副院長にして統括診断部の部長を務めている。

 明晰な頭脳と圧倒的な知識をもち、あらゆる疾患を看破する。また彼女は、しばしば刑事事件の解決にも協力している。

 いわゆる天才肌の医師兼探偵なのだが、唯一苦手なのが人情の機微。「空気を読む」とか「忖度する」ことができない。だから同僚や患者に対してトラブルを起こすこともしばしば。統括診断部とは、そんな彼女を ”隔離” するためにわざわざつくった部署だ。

 鷹央の姉・真鶴(まづる)は病院の事務長だが、妹とは違って常識人だ(笑)。そして姉妹の父は病院の理事長。鷹央が病院内で好き勝手できるのも、そんな背景があるから。

 院長は叔父の大鷲(おおわし)が務めているのだが、鷹央とは折り合いが悪く、彼にとって副院長の姪は目の上のたんこぶである。

 語り手兼ワトソン役は統括診断部に所属する医師・小鳥遊優(たかなし・ゆう)が務める。ちなみに統括診断部に所属する医師は鷹央と小鳥遊の二人だけ。彼は形式上は鷹央の部下だが、実質的には彼女のお守り、というよりは下僕に近い役回り(おいおい)。


「Karte.01 泡」

 深夜の久留米池公園へ肝試しにやってきた二人の小学生。彼らが目撃したのは、池から浮かび上がってくる黒い影。その異様な形相は・・・カッパだ!
 小学生からメールで相談を受けた鷹央は、小鳥遊を伴って久留米池の調査に向かい、カッパの正体とその背後に潜む犯罪を暴いていく。
 カッパの正体は誰でも見当がつくと思うが、それを犯人と結びつけるあたりは上手い。


「Karte.02 人魂の原料」

 『ドクターM(ミステリー) 医療ミステリーアンソロジー』で既読。
 内科医・小鳥遊の元に持ち込まれたのは、病棟内で ”人魂” が出るとの噂だった。
 それを聞きつけた鷹央は、小鳥遊を引き連れて深夜の病棟で待ち伏せをすることになるが・・・
 病院内では小鳥遊は鷹央の恋人だとの噂が流れており、二人で病室に潜んでいるところを見つけた看護師が、すわ密会かと喜ぶ(笑)などコメディ要素も楽しい。
 人魂の正体もそうだが、そもそもなぜ人魂が発生したのかにも納得の理由付けがある。


「Karte.03 不可視の胎児」

 妊娠した女子高生・石井美香(いしい・みか)は天医会創業病院で人工妊娠中絶手術を受けた。しかしその母親が病院を訪れる。二週間前から、娘が「赤ちゃんがおなかの中に帰ってきた」と言い出したという・・・
 美香の自覚症状の原因は、「あれ」じゃないかと見当をつける人は多いと思うが、それを上回る真相を提示してくる。この真相は医師ならでは。


「Karte.04 オーダーメイドの毒薬」

 天久鷹央が医療過誤で訴えられた。鈴原宗一郎(すずはら・そういちろう)という七歳の男の子に対し、ビタミンA過剰摂取という診断を下したが、母親の桃花(ももか)が「それは誤診だ」との訴えを起こしたのだ。
 事実、入院中の宗一郎はビタミンAの摂取をしていないにも関わらず、しばしば意識障害や歩行障害を起こすようになっていた。
 医療訴訟によるイメージダウンを心配する病院上層部は、これを機会に統括診断部の廃止を画策する。窮地に陥った鷹央は、宗一郎の症状の原因を探すが、彼の摂取する飲食物に異常は全く発見されない・・・
 TVアニメ第7話の原作エピソード。わかってみればよく知られていることなんだが、そこに気がつかないんだよねぇ。さすが。


「蜜柑と真鶴」

 完全版のための書き下ろし掌編。
 病院の敷地内の庭園に蜜柑の木があって、そこでミカン狩りをする話。


 本書を読もうと思った切っ掛けはTVアニメ。鷹央のCVは佐倉綾音さん。なかなかエキセントリックな役を好演されていて、内容もけっこう楽しめたので。

 本書も、どれも面白く読ませるエピソードなのだけど、「Karte.03 不可視の胎児」の終盤での鷹央の台詞にはちょっと感動した。このシリーズ、もうちょっと読んでみようかと思っている。

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