魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心



評価:★★★★

 真夏の深夜、大学生の瀬々良木白兎が目撃したのは、ベールを纏った二人の ”女魔法使い” が対峙する姿。その一人・聖川麻鈴が云うには、彼女らの ”師匠” は ”魔法” で殺されたのだという。
 その真相を探る真鈴に対し、4人の ”姉弟子” たちは次々に「自分が殺した」と名乗り出る。東雲大学〈名探偵倶楽部〉の白兎と来栖志希は ”魔法の殺人” の謎に挑むことになるが・・・

 〈名探偵倶楽部〉シリーズ、第2作。

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 語り手は東雲大学薬学部二年の瀬々良木白兎(せせらぎ・はくと)。〈名探偵倶楽部〉というサークルに所属している。

 真夏の深夜、アルバイト帰りに通りかかった公園で、白兎はベールを纏った二人の女性が対峙する場面に出くわす。片方の女性が胸の前に掲げた両手の中には、オレンジ色の炎の球体が浮かび上がった。まるで魔法のような不思議な光景だった。
 そしてもう片方は聖川麻鈴(ひじりかわ・まりん)。東雲大学の二年生だった。炎を操っていた女性は姉だという。

 翌日、〈名探偵倶楽部〉の部室を訪れた麻鈴は、不思議な話を語り出す。

 10年前、児童養護施設の経営者・聖川光琳(こうりん)が殺された。遺体は首が切断されて持ち去られ、胴体は樽に詰められ、その外から複数の剣に貫かれていたという。

 しかし麻鈴によると、光琳は史上 ”最強の魔法使い” であり、彼は ”魔法” によって殺されたのだという。

 両親を事故で失った麻鈴は、9歳の時に聖川光琳の養女となった。そのときから書き始めた日記には、光琳が魔法を使ったとしか思えないような不思議な出来事の数々が綴られていた。

 光琳には既に4人の養女がおり、麻鈴は5人目だった。4人の ”姉” たちも、”魔法使いの弟子” としての日々を送っていた。〈人形師〉の長女、〈獄炎使い〉の次女、〈時空旅行者〉の三女、〈神霊使い〉の四女・・・
 麻鈴の日記は光琳が殺された日まで続いており、光琳の不可思議な殺害現場の様子まで記されていた。

 白兎と後輩の来栖志希(くるす・しき)の二人は日記を読み解き、殺人事件の真相に迫ろうとする。しかし彼らの前に現れる姉弟子たちは、次々に「自分が師匠を殺した」と犯行を認めるのだった・・・


 事件から10年経ち、二十歳となった麻鈴の胸中は複雑だ。彼女は自分が経験した不思議な事象の数々は真実だったと思っている(思いたい)。だから光琳は魔法使いであったと信じている(信じていたい)。そして同時に、姉(たち)が殺人犯だとは信じない(信じたくない)。

 しかし、後半になって現れる〈名探偵倶楽部〉部長の金剛寺煌(こんごうじ・きら)が示す推理は、そんな麻鈴の願望を粉々に打ち砕き、彼女を絶望のどん底に落としてしまう。
 それに対して志希は、「可能な限り多くの人を幸福にする、そんな魔法のような解決をご覧にいれましょう」と豪語する・・・


 前作と同様、一つに事件に対しての多重解決を描いた作品だ。
 麻鈴の日記に描かれた、光琳および4人の姉たちと暮らした日々には、摩訶不思議な光景がしばしば現れ、まさに魔法の世界。極めつきは不可能犯罪にも思える光琳殺害の状況だが、このあたりは島田荘司の一部の作品に共通する雰囲気を感じる。
 島田作品の場合は、不可解な光景が現れる理由をかなりの ”力業” で説明していく。時には脳科学的な手法を用いることもあるのだけど、こちらはそれとは異なるアプローチで合理的に解決していく。
 なかでも、光琳や麻鈴たちが暮らしていた ”魔法の国” の ”所在地” については、かなり突飛なのでビックリさせられるだろう。

 そして、姉たちが「光琳を殺したのは自分だ」と次々に名乗り出るのはなぜか? 不可能にも思える現場の状況はいかにして実現されたのか? そして真犯人は誰なのか?

 こちらも合理的で納得でき、なおかつ麻鈴を悲しませない推理をきっちり導き出してみせる。志希さんの名探偵ぶりも板についてきた。

 前作の季節は「春」、今作は「夏」。ならば、このシリーズは最低でもあと二作、「秋」「冬」と続くのだろう。

 白兎くんと志希さんの仲がどう進展するのか(しないのか)も気になるところ。恋愛に関してはかなりの朴念仁ぶりを示す志希さん。単に白兎の想いに気づいていないだけなら可愛いものなのだが、分かってて惚けてるようにも見える(笑)。そのあたりもおいおい明かされていくのだろう。

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