評価:★★★☆
16歳の高校生イアンは、霧の深い日の午後に自転車で学校を出て、そのまま消息を絶った。イアンの姉アイリーンの訴えを受け、ニコルソン警部は捜査を開始する。
複雑な家庭環境や轢き逃げ事件への関与など、少年を取り巻く不穏な状況が明らかになるが、行方は依然として知れない・・・
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物語は、高校教師アイリーンと着任間もないニコルソン警部、二人の視点から交互に描かれていく。
イアン・プラットは16歳の高校生で、姉のアイリーンは彼の通う高校の体育教師。優等生だったイアンだが、最近になって悪い友人の影響で不良グループと一緒に行動するようになっていた。
イアンとアイリーンの家庭は複雑な状況にあった。その事情はストーリーの中で明らかになっていくのだが、母親のマーガレットはイアンを溺愛し、父親のアンガスは家のことには全くの無関心。イアンがグレ始めたのもそんな家庭環境と無縁ではない。
そしてある霧の深い水曜日の午後、イアンは自転車で学校を出て、そのまま消息を絶ってしまう。スーツケースがなくなっていたことから、目的を持った家出と思われた。
母親に泣きつかれたアイリーンは警察を訪れて事情を話し、ニコルソン警部による捜索が始まる。しかし少年の行方は杳として知れない。
やがてイアンが毎週水曜日に外出をしていたこと、最近になって金回りが良くなってきたことが判明。そしてそれが始まったのが、未解決になった轢き逃げ事件が発生した時期と一致していたことが明らかになってくる・・・
イアンの姉アイリーンは高校の体育教師。彼女自身は至極真っ当な人間でついでに美人と、ヒロインの資格充分。しかし彼女を取り巻く男たちは真っ当でない者ばかり。
たとえば彼女は同僚の美術教師ダグラスと婚約中なのだが、こいつがなんともロクデモナイ男。芸術家としても、婚約者がいる男としても、「それはアウトだろう」という行動を繰り返し、アイリーンを激怒させる。それでも、なかなか別れる踏ん切りがつかないのだから女心は複雑だ。
同じく体育教師の同僚トムは脳筋男で、上司で校長のハドルストン、親父のアンガスもロクデモナイ。イアンの不良仲間は言うまでもないが、家出したイアンが頼っていくと思われた ”ある人物” まで、事件の渦中でアイリーンが出会う男どもはみな、揃いも揃ってロクデモナイ奴ばかり。ここまで男運の悪いヒロインというのも珍しいのではないか。
ついでに云うと、アイリーンの学生時代からの友人が結婚した相手もロクデモナイのだから徹底している(笑)。これではアイリーンが「結婚」という言葉に幻滅を感じてしてしまうのも仕方ないだろう。
そんな中にあって、もう一人の主人公であるニコルソン警部は、口下手だが仕事一途で真面目な性格と、本書中で唯一と云っていいほどまともな男性として描かれる。
初対面のアイリーンに対して、かつての恋人の面影を見いだしたことから彼女のことを気に掛けるようになる。
二人は事件を通じてお互いのことを知るようになり、次第に惹かれあっていく。しかしアイリーンは婚約者がいる身であり、ニコルソンにとってアイリーンは事件の関係者であるから、当然ながら個人的な感情を示すようなことはしないし、できない。
読者はそんな二人のことをやきもきしながら読み進めることになるだろう。
読者はそんな二人のことをやきもきしながら読み進めることになるだろう。
中盤からは殺人事件に移行し、アイリーン自身も命を狙われるというサスペンスたっぷりの展開に。
最終的にニコルソンの推理によって真相が明らかになるのだが、伏線がきちんと組み上がって意外な真犯人に辿り着く、実によくできたミステリになっている。
この作者の作品では毎度のことだが、分かってみると意外なほどシンプルな解決。でもそれが分からないんだよねぇ。ホントに上手いと思う。
本書を以て、書いた長編ミステリが全作邦訳・文庫化されたということだが、それも納得だ。駄作がない、優秀なアベレージ・ヒッターなのだと思う。
物語のラスト、事件を通じて多大な不運と不幸に見舞われたアイリーンは、人生に希望を失ってしまったかに見える。だが彼女はまだ若い。時間が彼女を立ち直らせてくれるだろうと信じながらページを閉じた。
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