評価:★★★
女性作家集団「アミの会」が、〈旅と食事〉をテーマに競作したアンソロジー。
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『想い出編』
「あの日の味は」(柴田よしき)
美和は京都にやってきた。かつて同じ女性専用アパートで暮らしていた友人二人と15年ぶりに再会するために。時の流れは三人に様々な変化をもたらしていた・・・
「幸福のレシピ」(福田和代)
琴子は30年ぶりに神戸を訪れた。そこはパティシエだった夫と知りあった街。風景の変化に驚きながら散策する中、生田神社の境内で座り込んでいる若い男性と出くわしたのだが・・・
「下戸の街・赤羽」(矢崎在美)
彼氏と別れて実家に帰ってきた美琴のもとへ、幼馴染みの梨亜から連絡が。カフェを開くという彼女とともに、一泊二日で赤羽のスイーツを食べつくす旅に出ることに。
「旅の始まりは天ぷらそば」(光原百合)
FM潮の道の嘱託社員・永瀬真尋(ながせ・まひろ)が上司である局長と天ぷらそばについて他愛もないおしゃべりをする話。
連作短編シリーズの一編なのだが、2022年に作者が亡くなったので、漫才みたいなこの二人の会話がもう読めないのは哀しい。
「ゲストハウス」(新津きよみ)
誠は北アルプスにあるゲストハウスへ来た。娘から届いた手紙に導かれて。別れた妻が連れていった娘は27歳になっているはず。会うのは25年ぶりになる。だがそこには若い娘が4人も宿泊していた・・・
「からくり時計のある街で」(秋川滝美)
矢野七緖(やの・ななお)はドイツへやってきた。気楽な一人旅のはずだったが、思い浮かぶのは一年前にケンカ別れした親友・沢渡六花(さわたり・りっか)のことばかり・・・
「横浜アラモード」(大崎梢)
コロナ禍で旅行会社を解雇された明穂(あきほ)は、母から高知在住の清子さん(85歳)を横浜まで連れて行くことを頼まれた。明穂は張り切って旅程を組んだのだが・・・
『初めて編』
「下田にいるか」(坂木司)
企画が通らずに悩む旅行会社の社員・サトウ。気分転換に下田へ小旅行に出かける。食事やイルカショーなど下田を満喫しているサトウ君のもとへ、上司から電話が入る・・・
「情熱のパイナップルケーキ」(松尾由美)
派遣会社員のわたしは、台湾旅行に出かけた、そこで派遣会社先の駐在員・下田から食事会に誘われる。同僚の女性が日本に帰国する送別会なのだと云うが・・・
「遠くの縁側」(近藤史恵)
仕事でオランダにいた橋本は、トラブルに遭って同僚たちより帰国が遅れることに。一人残された橋本は、デキる女だったが退職してしまった先輩・茂木のことを思い出す。
「糸島の塩」(松村比呂美)
零細旅行会社社員の幸(みゆき)は、幼馴染みを装って川上優子に糸島への旅行の勧誘をかける。優子は幸の嘘を見抜いたが、なぜか糸島旅行への同行を誘ってきた・・・
「もう一度花の下で」(篠田真由美)
大学生の森住美南(もりずみ・みなみ)は宅配便を受け取る。差出人は亡くなった祖母に関係する人らしい。包みの中には箱館(はこだて)と思しき街の地図が・・・
「地の果ては、隣」(永嶋恵美)
サハリン4泊5日のツアーに参加した大学生の片桐萌衣(かたぎり・もえ)。だが参加者は高齢者ばかり。参加者たちが語る昔話に圧倒される萌衣だったが・・・
「あなたと鯛茶漬けを」(図子慧)
母が松山の病院に二ヶ月入院することになった。予備校講師のわたしは自宅と病院を行き来する日々。そこで劇団マーマドンナのメンバーたちと知りあうことになったが・・・
アミの会のメンバーは、私としては普段はミステリ作家として認識している方が多い。だからアミの会のアンソロジーはよく読むのだが、この二冊に限ってはミステリはほとんどない(ミステリ要素を含む作品もあるけど濃くはない)。
でもたまには旅とグルメを扱ったこういう話を読むのもいいかと思った。ほとんどは明るい話なのだが、ちょっぴりダークなものもあってバラエティに富んでる。読んでいて楽しかったよ。
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