侵略者(アグレッサー)



評価:★★★☆

 航空自衛隊飛行教導群所属の深浦と安田は、鹿島灘沖での格闘訓練戦に臨む。しかし正体不明の航空機の襲撃を受けて撃墜され、脱出した二人は見知らぬ男たちに捕虜となってしまう。
 二人が連れ込まれたのは最新兵器〈クラーケン〉の中。それは独立国家樹立を目論む〈ラースランド〉の根拠地だった。
 各国は〈クラーケン〉の追撃を開始し、深浦と安田も脱走を企てるのだが・・・

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 航空自衛隊飛行教導群所属のパイロット、深浦(ふかうら)三佐と安田(やすだ)一尉は、F-15Jを駆って鹿島灘沖での格闘訓練戦に臨む。しかし突如現れたアンノウン(正体不明の航空機)の襲撃を受ける。

 アンノウンはなんと無人戦闘機だった。武装していなかったF-15Jは撃墜され、脱出した二人は見知らぬ男たちに捕虜となってしまう。

 二人が連れ込まれたのは最新兵器〈クラーケン〉の中。それは独立国家樹立を目論む〈ラースランド〉の根拠地だった。二人の前に現れたのは美水(よしみず)と名乗る日本人。彼こそがアンノウンの操縦者だった。

 そして〈ラースランド〉の指導者はオマル・アハマト。サウジアラビア王家の血筋で、彼の家族は複数の巨大企業を抱える資産家だ。アハマト自身はテロリストへの資金供給が疑われて母国を追われていた。

 〈クラーケン〉の中には、深浦たち意外にも、様々な国籍の人間が十数名、人質になっており、アハマトは人質を楯に〈ラースランド〉の独立と不可侵を要求してきた。

 日米豪を含む多国籍国家による混成部隊が組織され、〈クラーケン〉の捜索が開始される。一方、〈ラースランド〉の拠点となっている南洋の孤島に降ろされた深浦と安田は、脱走を企てるのだが・・・


 まずアンノウンが無人であることについて。

 人が乗っていないゆえの機動性(パイロットの耐G限界による制限がない)を発揮できることで、有人戦闘機に対してアドバンテージがある、という設定というか前提にした作品(映画とか小説)はいくつかある。たいていはAIがコントロールしていたりしていて、本書のようにゲーマー(e-スポーツのチャンピオン)が操縦してるというのは珍しいかな。本職のパイロットに勝てるものなのかはちょっと疑問だったりするが、深浦たちのF-15Jは非武装だったから負けたのかも知れない。

 本作の一番の目玉(?)は〈クラーケン〉だろう。具体的な形状や大きさの言及はないのだけど、描写されているとおりの性能なら、ジェット戦闘機の発着ができる潜水艦ということになる。作中では旧日本海軍の伊400型潜水艦をかなり大型化した潜水空母ではないか、とされている。私の解釈はちょっと異なるのだが、それは最後に述べることにする。

 本書の表紙はF-15Jなのだけど、これが出てくるのは冒頭だけで、本作の戦闘シーンはほとんど〈クラーケン〉中心に展開される。まあ私は ”潜水艦もの” も大好きなので、各国の追撃部隊と〈クラーケン〉が対峙するシーンはなかなか楽しく読ませてくれる。

 ミリタリー冒険サスペンスとしてはそれなりによくできてると思うのだけど、「侵略者」(ふりがなは ”アグレッサー”)というタイトルはどうだろう。

 これは主役の深浦たちが所属する航空自衛隊飛行教導群の別名が ”アグレッサー” だから、という理由なのだろうが、これを日本語に訳して「侵略者」というタイトルにするとかなりニュアンスが変わってように思う。
 日本領の島あるいは本土のどこかにどこぞの軍隊が上陸して自衛隊とドンパチしたり、国籍不明の爆撃機が領空侵入して一路大都市を目指すとかの話を連想する人も多いのではなかろうか(すくなくとも私はそうだった)。

 ところがふたを開けてみれば、潜水艦一隻が独立宣言をしてそれを認めろと世界に要求するという、どこぞのマンガにもあったような話。

 鹿島灘沖に現れたアンノウンだって、領空外だろうし(排他的経済水域の上空ではあるだろうけど)。まあ、演習中の自衛隊機を撃墜したのは侵略行為に該当しそうだが。
 一般的な「侵略」という言葉と、本書の内容がちょっと乖離しているのは間違いないところだと思うので、読んでみて当てが外れたなぁと思う人は一定数いると思う(私もその一人)。

 なんだか文句っぽいことをたくさん書いてしまったが、物語としてみれば決してつまらなくはない(評価の★数も少なくないし)。

 水中の〈クラーケン〉と海上の追撃部隊の繰り広げる攻守の駆け引きは面白いし、後半になってストーリーの中心となる少女サルマーもなかなか魅力的なキャラだと思う。

 この手の物語では〈クラーケン〉が沈められて THE END となりそうだが、本書はひと味違う。どこが違うのか興味がわいた人はぜひ読んでみていただきたい。


 最期に余計なことを。
 作中では〈クラーケン〉のモデルについて伊400が挙げられていたが、最期まで読んでみると、実は〈クラーケン〉の元ネタは往年の潜水艦マンガの名作『○○○○○○○○』に登場する○○○○○○なんじゃないかな、と思っている。


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