評価:★★★
ノンフィクション作家・稲見駿一が失踪した。フリーライター・新城誠は、編集者の中島好美とともに調査を開始する。やがて稲見が月に30万円もの大金をある人物に送金していたことが判明、恐喝の疑いが浮上する。だがその人物は、既に火災で焼死していた。
調査を進めていく新城は、稲見の出生について疑惑を抱き始める・・・
『消人屋敷の殺人』で活躍した二人が再び手を組んで事件に挑む。
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ノンフィクション作家・稲見駿一(いなみ・しゅんいち)は資産家に生まれ、彼自身も働かなくても生活に困らない収入を得ていた。だから売れ行きを度外視した完璧主義の作品を書くことで有名だった。
その稲見が取材旅行に出かけたまま消息を絶った。彼の仕事場で脅迫状を思わせる文書が見つかったことから、何らかの事件に巻き込まれたことも予想された。
稲見の妻・日菜子(ひなこ)から依頼を受けたフリーライターの新城誠(しんじょう・まこと)は、編集者の中島好美(なかじま・このみ)とともに調査を開始する。
やがて稲見が月に30万円もの大金を木谷嗣弘(きたに・つぐひろ)なる人物に送金していたことが判明する。
そして新城は、稲見と木谷が同時期に同じ病院で産まれていたことを突き止める。二人には出生の秘密がありそうだ。
さらに新城は、木谷が住んでいた住宅が全焼し、木谷とその妻が焼死していたことを知る。それは稲見が取材旅行に出かけた直後のことだった。稲見には放火殺人の容疑が掛かることになったのだが・・・
『消人屋敷の殺人』でタッグを組んだ新城誠と中島好美が再び手を組んで事件に挑む。
前回の事件の後、恋人関係になった二人が仲良く食事しながら事件の検討をしていくのがなかなか微笑ましい。
中島はワトスン役で、基本的に彼女の一人称で綴られていのだが、章によって視点人物が変わる。ちょっと戸惑う部分もあるのだが、読み終わってみると、この複雑な物語を読者に分かりやすく提示するための方策だったと分かる。
読者は途中までの展開で、ある程度の見当をつけると思う。
「あのパターンじゃないのかな?」と。
もちろん、終盤になって明らかになる真相はそれを上回るものになっている。
その真相も、ミステリを読み慣れた人なら「想定の範囲内」かも知れない。だが、かなり綱渡り的な部分もあって、人によっては「無理がある」と感じる人もいるかもしれない。
でも作者の巧みなところは、その真相へ導くための伏線の張り方や小道具の使い方、登場人物の背景や設定などがきっちり計算されていて、不自然さを感じさせない工夫を凝らしていること。
なおかつ無駄がなく、この内容で文庫で約340ページと比較的コンパクトにまとまっているところも流石だ。それでもミステリとしての密度は高く、物語としての余韻も十分。
作者がミステリを語るテクニックが味わえる作品だと思う。
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