評価:★★★☆
憧れの女性をデートに誘ったはずが、なぜか家電量販店の開店前行列に並ぶことになった青年。そこで出くわした謎とは・・・(表題作)
副題に「人の死なない謎解きミステリ集」とあり、その名の通りの〈日常の謎〉系ミステリ5編を収録した短編集。
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「さくらが丘小学校 四年三組の来週の目標」
新米教師・成田慶一(なりた・けいいち)が担任する四年三組で事件が起こる。生徒が学校に持ち込んだトレーディングカードが紛失する。どうやら盗まれたらしい。
この盗難事件の解決を生徒たちと約束した成田だったが、どうにも見当がつかず、先輩教師の遙原花(はるはら・はな)に相談するのだが・・・
いささか酒乱の気がある花先生も楽しいが、登場する子どもたちがとても個性的。幼いなりにいろいろと考えていて、子どもと見くびると足元をすくわれる。
義務教育の先生方の激務がよくニュースになるが、子ども間のトラブルの解決まで降りかかってくると身体がいくつあっても足りないだろうなぁ。
「ライオンの嘘」
主人公は高校二年生で文化祭実行委員会副委員長を務める五十嵐(いがらし)。学校は9月を迎え、文化祭を翌日に控えている。
そこへ一年生の高嶺(たかね)がやってきた。サッカー部の部室でパソコンの盗難があった。現場はカギが掛かった密室だったという・・・
高校生ともなると恋愛沙汰も日常生活に入り込んでくるだろう。ましてや大きな行事が迫ってくれば精神的に非日常感が高まって、普段なら起こせない行動も起こりがち。そんな人間関係が事件の背後に潜んでいるのだが、こういう組み込みかたは面白い。なかなかよくできてる。
「神さまの次くらいに」
大学生の花房(はなぶさ)は、一つ年上のゼミの先輩・榛子(はるこ)さんをデートに誘うが、彼女は特売のテレビ(限定10台)を買いに行きたいという。というわけで二人は家電店の開店前行列に並ぶことに。そこで二人は小さな ”謎” に出会うことになる。
日常の謎系ミステリではあるのだが、行列に並んでいる時に花房と榛子が交わす会話がなかなかいい。SNS全盛の時代にあって榛子さんはなかなか真っ当な見識を持っている。そしてこれが後半の謎解きと、それに対する行動にも絡んでくる。
「小さいものから消えよ」
探偵・凜堂星史郎(りんどう・せいしろう)のもとに持ち込まれた仕事はなんとベビーシッター。彼は相棒の推理作家・月瀬純(つきせ・じゅん)とともに依頼人・音羽翔子(おとわ・しょうこ)のもとへ向かう。音羽はフリーのジャーナリストで、彼女の息子・蓮音(れのん)を預かることになった。
三人で近くの公園に出かけるが、そこに居合わせた地元のお母さん方から不思議な話を聞く。その公園では、毎日ひとつづつ、ものが無くなっているのだという。
手始めは猫除けのための水入りペットボトル5本。翌日はリサイクルボックス。三日目は放置されていた自転車。消えるものは日を追うごとに大きくなっていた・・・
これも現代ならではの事件かな。明かされてみれば「そんなことで」とも思うが、当事者からすれば深刻な問題なのだろうとは思う。
「デイヴィッド・グロウ、サプライズパーティーを開く」
弁護士のサンドラは、幼馴染みのデイヴィッド・グロウから連絡を受ける。グロウ家は資産家で、その御曹司であるデイヴィッドはお気楽なニートだった。彼は父親エリックの誕生日を祝うべく、サプライズパーティーを開こうと画策していたのだ。
サンドラはカナダにあるグロウ家の持ち家の一つに向かう。そこにはエリックの子や孫たちが一堂に会していた。そしていよいよパーティーが始まる。
ところが、参加メンバーが一人一つずつ持ち込んだはずのプレゼントの山の中に、一つだけ誰が持ち込んだのか不明のものがあることがわかった。その中身はミニチュアカーで、小粒のダイヤモンドが組み込まれており、値段は45000ドルと高価。いったい誰が持ち込んだのか・・・
終わってみれば、思いやりがあふれたいい話、かな。サンドラが探偵役を務めるのにも理由が与えられてる。
デイヴィッドは作者の長編『星読島に星は流れた』にも登場しているキャラで、作者によれば主人公やヒロイン以上に人気が出たらしい。本作はいわばスピンオフで、デイヴが登場する未発表の短編がもう一つあるらしい。私もデイヴにまた会いたいと思う。そしてサンドラにも。
本書に収録の5編は、日常の謎系というのもあるだろうが、総じて読後感がとてもいい。そして、各作品で探偵役やその相棒として登場したキャラが、これまたみんな親しみがもてる。できれば全部の短編を連作短編集にしてもらいたいなぁ。
ちなみに私の ”推し” は、榛子さんとサンドラがツートップ(笑)。
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