悪魔道人 影がゆく2



評価:★★☆

 時は戦国。武田信玄が没した後の甲斐国へ潜入した伊賀忍者8人が消息を絶つ。殺されたものとみた伊賀者の棟梁・服部半蔵は、老忍・音羽ノ源三に仇討ちの命を下す。
 浅井家の姫の命を救った少年忍者・犬丸と美貌の忍者・弁天もまたこの事件に巻き込まれていく・・・
 戦国忍者アクション『影がゆく』、続編。

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 滅亡した浅井家から遺児となった姫を連れ出し、越後・上杉家までの護衛を果たした少年忍者・犬丸(いぬまる)と美貌の忍者・弁天(べんてん)を描いたのが前作『影がゆく』。本書はその直後から始まる。

 元亀4年(1573年)、武田信玄が没した後の甲斐国へ潜入した伊賀忍者8人が消息を絶つ。みな殺されたものとみた伊賀者の棟梁・服部半蔵は、配下の忍者・音羽ノ源三(おとわのげんぞう)に仇討ちの命を下す。

 源三は齢61ながら、術を極めた老練の忍者。下忍二人を伴って甲斐へ入国し探索を開始する。

 一方、越後へ浅井の姫を送り届けた犬丸と重蔵(じゅうぞう)・次助(じすけ)の三人は、その帰路で武田領信濃に入るが、そこで犬丸が簪(かんざし)売りを名乗る謎の男に掠われてしまう。
 犬丸が連れ込まれた寺には、同世代の少年少女たちが捕らわれていた。子どもたちはそこで集団生活を送る中で、僧たちによって洗脳されようとしていた。
 それに抗う犬丸は、この陰謀の背後に謎の怪僧・無洞軒(むどうけん)が暗躍していることに気づくのだが・・・

 前作『影がゆく』は、落ち延びていく浅井の姫君を巡って信濃の山中で忍者たちが秘術を尽くして戦うアクション小説としてとてもよくできていた。
 その続編と云うことで、かなり期待していたのだが、残念ながら私の評価はあまり高くない。

 その理由はいくつかあるのだが、まず登場する音羽の源三について。

 戦国時代の齢61というのは、現代で云ったら80越えくらいのご老体。しかし源三は体力こそ衰えたとはいえ、多くの修羅場をくぐり抜けてだけに経験値は充分。敵の陰謀を見抜き、罠に落ちたと見せかけて反撃を試みたりとなかなかの活躍。
 体力ではかなわなくても、豊富な経験値とインサイドワーク(頭脳プレー)で敵と渡り合っていく姿に、同じ高齢者として(笑)とても期待していたのだが、中盤でまさかの退場。これにはかなりがっかりしてしまった。

 でも一番の不満は、敵の首領たる「悪魔道人」だろう。

 本書の冒頭、プロローグでは彼の過去が語られる。もとは甲斐の国の透破(すっぱ:忍者)だったが、敵に捕らえられ、凄まじい拷問を受けた末に脱走、雪原の中に消えたという伝説の忍びだった。
 ここでのエピソードを読むと、この後の彼がいかにも「世を呪った悪魔的存在」へと変貌していきそうで、これはなかなか魅力的な悪役の登場だと期待したのだけど・・・

 この「悪魔道人」こそ、作中で「無洞軒」として登場する人物なのだが、実はあまり活躍しない(笑)。いや「羅刹天」(らせつてん)をはじめ凄腕の忍者たちを配下に持っていたり、くノ一(女忍者)たちを「歩き巫女」(あるきみこ)として四方八方に放っていたり、少年たちの世話役兼洗脳役を司る僧たちを操って、いろいろ悪巧みを巡らせるのだが、肝心の本人が隠れ家である廃寺(というかその地下空洞)からあまり動かないんだよねぇ。

 だから、周囲の者たちはスゴく頑張ってるのに、肝心の「悪魔道人」があまり「悪魔」っぽい感じを受けない。

 もっとも、冒頭のエピソードを経て誕生した「悪魔道人」なら、さぞかし圧倒的な強さとおぞましさを兼ね備えた黒幕として作品を牽引していくだろう、ってこちらが勝手に期待していただけなのかもしれないけれど。

 それに、この物語の時点でかなりの高齢になってるらしいので仕方ないのかも知れないが、タイトルに謳う以上は、それなりの活躍を期待してしまうよねぇ。音羽の源三だって老体に鞭打って頑張ってたんだし(笑)。

 終盤では無洞軒が何を企んでいたのかが明らかになるのだが、そのあたりもあまり緊迫感なく決着してしまったように感じる。

 個々のエピソードやキャラなどは魅力的だし面白いのだけど、総合的には満足とは言いがたい。前作を読んだ私の期待があまりに大きかったせいかもしれないが、ちょっと物足りなく思った作品でした。

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