災厄の宿



評価:★★★

 昭和51年(1976年)、弁護士事務所の調査員・上坂徹郎は休暇で四国・徳島の山中にある宿を訪れる。だがそこに散弾銃と爆発物を持った押し入り、宿泊客たちを人質にして籠城するという事件が勃発。
 折しも台風の接近で川は氾濫、土砂崩れも起こり、旅館も危険な状態に。さらに、警官隊が周囲を取り囲む中、旅館内では不可解な殺人事件まで起こる・・・

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 昭和51年(1976年)、弁護士事務所の嘱託調査員・上坂徹郎(かみさか・てつお)は休暇で四国・徳島の山中にある宿を訪れる。

 そこでは地元の有力者・河野依志輔(こうの・よしすけ)の喜寿を祝う会が行われていた。しかしそこに多田修一郎(ただ・しゅういちろう)という男が散弾銃と爆発物を持って乱入し、会の参加者と宿泊客たち、そして従業員を含めて20名以上を人質にして籠城するという事件が勃発する。

 河野家はあたり一帯の大地主で、その資産を元に複数の企業を立ち上げた。河野の一族は地元の経済を牛耳り、政治家と結託してその力を背景に支配者として君臨していた。河野家に逆らったら、この地では生きていけないわけだ。ゆえに、彼らの傲然たる振る舞いに泣き寝入りしてきた者も多くなる。
 多田修一郎もその一人で、河野一族によって兄が自殺に追い込まれたと主張し、復讐を目論んだのだ。

 県警の警官隊が周囲を取り囲む中、折しも台風の接近で川は氾濫、周囲では土砂崩れも起こり、旅館自体も危険な状態に。

 さらに旅館内の布団部屋で他殺死体が発見される。多田によって旅館内のすべての人間が監視下にある中、誰がどうやって殺したのか・・・


 上坂には、かつて刑事だったという過去があり、旅館を包囲する警官隊の中にも旧知の人物がいた。現場に踏み込めない警察から要請を受け、上坂は単独で殺人事件の捜査を始めることになる。

 人質立てこもり事件による強制的なクローズト・サークルの成立、迫り来る台風と自然災害、不可解な殺人事件といろいろてんこ盛りな作品。


 多田が河野一族の悪行を暴くためにマスコミを利用しようとする展開はなかなか面白いが、殺人事件の不可解さの解明はかなりあっけない気もする。まあ、ストーリー進行のためには必要な流れなのだろうけど。

 河野一族の中も一枚岩ではなく、軋轢や妬み嫉みが渦巻いているのは、いかにもありそうな状況。そのあたりも上手く描いていると思う。


 この物語は、事件から47年後(2023年)に、80歳を超えた上坂が事件の起こった地を再訪して回想するという形式で綴られているのだが、なぜそうしたのかはエピローグで明らかに。

 いろんな要素が盛り沢山の、幕の内弁当みたいな作品。人によって好みはいろいろだろうけど、私は楽しみました。


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