シンデレラ城の殺人




評価:★★★★

 怪しげな魔法使いからガラスの靴を渡され、王城で開かれる舞踏会に無理矢理参加させられたシンデレラ。王子様の目にとまりダンスを踊ったのも束の間、その直後に王子は死体となって発見される。容疑者となったシンデレラは急遽開かれた臨時法廷で裁かれることに。死刑を免れるには、自分自身の手で無実を証明しなければならない・・・

* * * * * * * * * *

 シンデレラは生後間もなく母を喪った。父が再婚した相手は、かつては大貴族だったトンプソン家の未亡人だった。継母の娘二人はシンデレラの義姉となった。

 しかし父が事故死し、シンデレラは継母と義姉たちにこき使われる日々を送ることに。さぞかし辛い日々に泣き暮らしているのか・・・と思いきや、本書のシンデレラはいささか異なる。

 何を言われても柳に風と受け流し、微笑みながら(ユーモアのオブラートで包んではいるが)鋭い舌鋒で切り返す。よく言えばたくましい、悪く云えば図太く凹まないキャラになっている。まあ序盤の数ページを読めば分かるが、基本的に本書はコメディである(殺人事件はガチだが)。

 継母と義姉二人が王城で開かれる舞踏会に出かけることになり、「これでサボれる」と喜んでいたシンデレラだが、そこへ現れたのが、なんとも胡散臭い魔法使いアムリス。

 「その気はない」とシンデレラが再三言うにもかかわらず、ガラスの靴やドレスや馬車や御者まで用意して彼女を無理矢理、舞踏会へ送り込んでしまう。

 しかしそこで王国の第一王子オリバーの目にとまり、シンデレラは彼とダンスを踊ることに。しかしその直後、オリバーは密室内で死体となって見つかる。そこへ出入りできたのはシンデレラだけ。

 殺人犯として捕らえられたシンデレラは、急遽開かれた臨時法廷で裁かれることに。死刑を免れるには、自らの手で無実を証明しなければならない・・・


 臨時法廷は舞踏会を中断して開かれた。しかし午前0時にはシンデレラに掛けられた魔法が解けてしまう。なんとしてもそれまでに彼女は真相を突き止め、真犯人を指摘しなければならない。というわけでタイムリミット・サスペンスでもある。

 検察官役となるのは裁定官クロノア。弁護士は置かれないので、シンデレラはクロノアに対して自分で自分を弁護することに。法廷部分は二人の丁々発止の対決シーンが続く。

 本書はファンタジー世界での特殊設定ミステリなので、魔法が実在する。ストーリーや殺人事件の真相にも魔法が絡んでくるのだが、使える魔法の種類や効果、制限事項などはきちんと設定されていて、作品内で提示されているので問題ない。

 最終的にすべてが明かされてみるとわかるが、魔法の設定を上手く取り込んだミステリになっているし、この世界設定でなければ起こらなかった事件でもあると思う。

 キャラ設定も面白い。シンデレラについては上にも書いたが、従来のイメージを覆した現代的で斬新なもの。

 さらに彼女の義姉二人もいい。長女のジョハンナは絵に描いたような大食いで極めてマンガ的。次女のライラは、事件が起こった後は探偵役のシンデレラの相棒となって行動を共にするのだが、二人の会話は漫才のボケとツッコミみたいで笑いを誘う。それでも要所要所でライラは意外な働きをするのでけっこう重要な役回り。

 そして一番のサプライズはラストにやってくるのだが、これは予想がついた人もいるのではないかな。私もなんとなくそうじゃないかと思ったし、作者もあまり隠すつもりはなかったのではないかと思う。

 本書は楽しく読めるファンタジック・ユーモア・ミステリの佳品に仕上がってる。『錬金術師』シリーズでも片鱗はあったけど、ここまでコミカルに振り切った作品も書けるとは、改めて作者の引き出しの多さを感じた。

この記事へのコメント