評価:★★★★
203X年、地球軌道上での人工衛星やデブリが異常な機動を示したことが観測される。それはブラックホールを動力源とする小惑星オシリスとともにやってきた未知の知性体オピックによる侵略の前触れだった・・・
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203X年3月、地球軌道上にある機能停止衛星やデブリが異常な機動を示したことが観測される。それはナノサイズのブラックホールが通過したとしか思えない現象だった。
やがて小惑星オシリスが地球に接近、周回軌道に入った。オシリスはその内部にブラックホールを抱え、それを動力源としていると推定された。それは未知の地球外知性体(後に「オピック」と名付けられる)の存在を示すものだった。
そして兵庫県の山中にパイプ状のロボット・”チューバー” が出現し、現地の人間を殺戮し始めた。それは鎌状の腕で人間の首を切るという、なんとも原始的だが恐るべき方法だった。
その現場にいたIT技術者の武山隆二(たけやま・りゅうじ)は、一緒にいた友人の相川麻里(あいかわ・まり)と矢野卓二(やの・たくじ)が殺されるのを目の当たりにする。そして隆二自身も逃げる途中で捕らえられてしまう。
彼が目を覚ましたのは小惑星オシリスの中。しかしそこには、死んだはずの麻里と卓二が無事に生存していた。
彼が目を覚ましたのは小惑星オシリスの中。しかしそこには、死んだはずの麻里と卓二が無事に生存していた。
世界各地で起こった ”チューバー” による侵略行為に対し、国連の下部組織IAPO(軌道上における異常現象を調査する国連特別調査班:UN Special Investigation Team to Investigate Anomalous Phenomena in Orbit)が対策立案を始める。
航空宇宙自衛隊の宮本未生(みやもと・みお)一等空佐もまたIAPOに加わった(というより厄介払いで出向させられた?)人材。彼女はオシリス探査のために打ち上げられる宇宙船のクルーの一人となる。ちなみに第1巻の表紙は、その打ち上げが行われるバラク・オバマ宇宙基地だ。
しかし衛星軌道で船外活動に出た未生は、そのままオシリスに捕らわれてしまい、そこで隆二・麻里・卓二と出会うことになる。
物語は、オシリス内で生活しながらオピックの情報を得ようと試行錯誤する4人の活動、オピックの侵略に対処することになったIAPOのメンバーの活躍、そして侵攻を食い止めるべく反撃に出る地球の軍隊の戦いなど、複数のラインが並行して描かれていく。
ちなみに第2巻の表紙は、侵略の橋頭堡としてオピックが建造を始めた軌道エレベーターを破壊すべく、モルディブ沖の洋上から大出力レーザー砲を放つ海上自衛隊の最新鋭護衛艦「からつ」の勇姿だ。「からつ」はこの後、オピックからの意外な反撃を受けて激闘を演じることになる。
侵略者としてのオピックについて、地球側はまったくといっていいくらい情報を得られない。”彼ら” はこちらからの呼びかけには全く答えず、”チューバー” をはじめとするメカ類を送り込んで殺戮を繰り返すのみ。
ブラックホールを操るというスーパー・テクノロジーを持ちながら、”チューバー” の攻撃はなぜか首切りという原始的な方法をとる。
地球人はそんな ”ちぐはぐ” なオピックの行動の謎を追い、彼らの行動の意味や目的を解析しようとする。
やがて明らかになってきたのは、オピックはミリマシン(ナノマシンよりは大きな微細機械類)を使って ”チューバー” をはじめ様々なものを作り出していることだ。
驚くべきことに、ミリマシンは人体を分解することはもちろん修復することも可能だ(麻里や卓二が生き返ったのもそのためと思われる)。
さらに、一人の人間を(外見上は)そっくり複製することさえできるという驚異の能力を示す。もっとも、記憶の再現は不完全だし人格の複製まではできないようだが。
オピックは、その ”複製人間” を陣頭に立てて侵略を進めていく。
対する地球側なのだが、本書は近未来の物語として設定されているので、いろいろ興味深い展開が用意されている。
まず、侵略に対して大国間の足並みが揃わないのは相変わらず。軍隊の防衛出動も各国ごとでまちまち。それでも、国連の下部組織であるIAPOに各国が人材と資金を提供することで、辛うじて最低限の国際協力が成立しているという状況だ。
そして日本をはじめ先進国では少子高齢化が進行した結果、人材不足が深刻になっており、第一線の研究者や技術者は組織や国を超えて奪い合いの状態にある。
本書の中でも、日本人なのにアメリカ国籍を取って海外で活動したり、国をまたいで複数の組織を飛び回るメンバーが随所に登場する。
そして人出不足は軍隊も例外ではない。日本でも自衛隊の充足率が低下していたり、幹部・指揮官クラスの人材が足りなかったり。
そこへ持ち上がった ”侵略騒ぎ” に対して、日本政府と自衛隊は ”ある奇策” を以て対応しようとする。これは終盤で発動するのだが、ネタバレになるのでここでは書かない。
トンデモナイ方法ではあるのは間違いないのだが、少子高齢化が極端に進んだ未来ならこんな事態が絶対に起こらないと断言できない気もするのはちょっと怖くもある。
そして最終巻では、全世界から打ち上げられた数十基のモジュールが衛星軌道上でドッキングし、武装した宇宙船団となってオシリスに向けて進撃を開始する(第4巻の表紙がそれ)という、侵略ものらしい派手な展開でクライマックスを迎える。
オピックの正体や目的も含め、最終盤に至って本書はSFらしい巨大なスケールの物語へと変貌して幕を閉じる。
いやあ、やっぱりSFは面白い。
いやあ、やっぱりSFは面白い。
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