評価:★★★
八咫烏の一族の住まう異世界「山内」。外患たる大猿との戦いを終え、正式に金烏として即位した捺月彦だったが、今度は内憂に悩まされることに・・・
長編ファンタジー「八咫烏」シリーズ第二部第3巻。捺月彦の兄である長束の側近・路近と、勁草院の教官だった清賢・翠寛の若き日の物語が綴られる。
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八咫烏(やたがらす)の一族の住まう異世界「山内(やまうち)」。外患たる大猿との戦いを終え、正式に金烏(きんう:山内を統べる者)として即位した捺月彦(なつきひこ)だったが、今度は内憂に悩まされることに・・・
捺月彦の兄である長束(なつか)は、自らの側近である路近(ろこん)の言動に不穏なものを感じていた。金烏への忠誠についてもかなり怪しげである。
捺月彦と話し合った結果、路近の恩師である清賢(せいけん)に相談に行く。しかし清賢は「自分よりも適任の者がいる」と云い、かつて勁草院の教官だった翠寛(すいかん)の名を挙げる・・・
ここから物語は時間を巻き戻して、清賢の少年時代に戻る。
大店の商人の次男に産まれた清良(せいりょう:清賢の幼名)は、大貴族である南橘(みなみたちばな)家の推薦をもらって勁草院への入学を認められた。
無事に卒院した清良は、挨拶のために南橘家を訪れ、そこで路近(みちちか)という少年に出会う。
この路近というキャラがとにかくぶっ飛んでいる。頭はすこぶる賢いが、情緒というものを完全に欠いている。思いやりとか共感するとかいう心の動きが全くない。ましてや「相手の気持ちになって考える」なんて行動は、彼にとっては不可解極まりないことなのだ。
言うことを聞かせようにも、武術も桁外れに強いので、力によって強要することも不可能。一度暴れ出したら手をつけられず、誰も止められない。
この路近が勁草院に入学した。清良は清賢と名を改め、路近の教育係として勁草院の教官に就任することになった。
そして南橘家が路近の身の回りの世話役として、翠(みどり)という少年を付けていることを知る・・・
本書は路近という特異極まるキャラを、彼を取り巻く者たちを通じて描いていく。前半1/3は清賢、後半2/3は翠。
粗暴で残虐で、恐怖すら感じる。およそ感情移入ができない路近なのだが、読んでいくに従ってちょっぴり哀れみを感じなくもない。自分から望んであんな性格に生まれついた訳でもないだろうし(かといって、もろもろの行為が許せるわけでもないが)。
聞くところによると、この『八咫烏』シリーズは(番外編は除いて)第一部6巻、第二部6巻、計12巻で完結とのこと。ならば、残りは3巻。
長束も路近も翠寛も、おそらくそこでは重要な役回りとして活躍するのだろう。その布石としてのこの巻だったのだろうから、期待しておこう。
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