堕地獄仏法/公共伏魔殿



評価:★★★

 筒井康隆が作家活動の初期(1964~68年)に発表された短編から選んだ傑作集。

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「いじめないで」

 戦争が終わり、人類は絶滅した。たった一人生き残った報道記者・サヤマは、中央司令部に鎮座するコンピュータ・ジョブと会話をしていくのだが・・・


「しゃっくり」

 オートバイで出勤途中の ”おれ” が交差点を通りかかったとき、突然時間がループをはじめる。同じ場面を何度も繰り返すことになるのだが・・・


「群猫」

 大都会の地下を流れる巨大下水道。そこで何十年もかけて繁殖してきた盲目の白い猫の大群と怪物バクー。ある日、猫たちは怪物バクーに戦いを挑むが・・・


「チューリップ・チューリップ」

 タイムマシンを組み上げた ”おれ”。それに乗って作動させたところ、時間移動はせずに ”おれ” が二人になってしまった。もう一度作動させたら今度は四人に・・・


「うるさがた」

 冥王星の観測所に一人で働く ”おれ”。二週間後に交代要員が来るはずが、地球で暴動が起こり、あと15年は宇宙船が飛ばなくなった。その代わり、木星の衛星イオから若い女が来るという・・・


「やぶれかぶれのオロ氏」

 火星総裁のオロ氏は地球訪問から帰還し、ロボット記者たちのインタビューを受ける。しかし彼らの四角四面で融通の利かない応答に苛立ち、ついつい失言を重ねていってしまうのだが・・・


「堕地獄仏法」

 総花学会が指示する恍瞑党が政権を握って四年が経ち、厳しい言論統制が敷かれていた。報道はもちろん文学にまで。作家の ”僕” はそれに抵抗していたのだが・・・


「時越(ときごえ)半四郎」

 奥州の藩に生まれた片倉半四郎は、些細なことから果たし合いを挑まれた。しかしその最中に彼の姿は消え、二日後に現れた。彼は時を超えたのだ・・・


「血と肉の愛情」

 ”私” は食人を習慣とする種族のひとり。長である父の肉体を食べて新たな長となった。しかし、不時着した宇宙船でこの星へやってきた地球人トーノは、その習慣を受け入れられないようだ・・・


「お玉熱演」

 パチンコ屋の店員である19歳のお玉に、テレビに出演できるという話が舞い込む。喜び勇んで倉庫のようなスタジオに入るが、次から次へと無茶振りをさせられて・・・


「慶安大変記」

 受験生の ”おれ” が、徳川大学と慶安予備校の学生たちの対立を煽ったところ、騒ぎは小競り合いを遙かに超えて内戦状態へとヒートアップしていく。大学入試が受験戦争と呼ばれた時代に書かれた話。


「公共伏魔殿」

 (○HK?の)受信料支払いを拒否する ”おれ” は、たまたま仕事で(○HK?の)放送センターへ行くことに。そこの内部には、とんでもない秘密が隠されていた・・・


「旅」

 時間管制局で働いていたコンたち四人は、精神的流刑に処せられた。大脳だけ取り出されて接続された四人は、さまざまな動物となった自分自身の姿を見る・・・


「一万二千粒の錠剤」

 一錠あたり一年寿命を延ばす薬が発明されたが、材料が希少なため製造されたのは一万二千錠のみ。政府は選ばれた「将来有望な120人」に100錠ずつ配ることにした。たまたま選ばれた ”おれ” の前には、薬を狙ってさまざまな者たちが現れる・・・


「懲戒の部屋」

 通勤電車の中で痴漢行為を疑われた ”おれ” は、周囲の女たちに囲まれて凄まじい糾弾の嵐に見舞われる・・・


「色眼鏡の狂詩曲(ラプソディ)」

 作家の ”おれ”(筒井)のところへ、アメリカの友人から英文の小説が届く。それは日本をテーマにしたものだったが、そこに描かれる日本は凄まじく歪んだものだった・・・


 以上16編、いずれも未来世界や架空の設定を描いたSFなのだが、書かれた ”時代” というのは自ずと現れてくるようで、いかにも「昭和」という雰囲気にあふれた作品になっているのは面白い。

 だから現代の目でみてみると、いささか古くさい描写の場面も多々あるが、60年代という ”高度成長の時代” をバックに書かれたせいか(作者も30代と若かったせいもあるだろうが)、どの作品にも ”勢い” があって、一種異様な迫力を感させる。
  私は高校・大学生時代に(1970年代後半頃)、筒井康隆の短編集をまとめて読んでるので、どれも一度は目を通しているはずなのだが、ほとんど記憶がなかったよ(おいおい)。

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