怪獣殺人捜査 殲滅特区の静寂




評価:★★★★

 「怪獣」の度重なる出現に、日本政府は「怪獣省」を設置して迎撃態勢を確立した。
 怪獣の進路を分析、迎撃方法を立案する予報官・岩戸正美は、怪獣迎撃の任務中、たびたび奇妙な事態に遭遇する。
 そんなとき、ヨレヨレのコートをなびかせ、風采の上がらない中年男・岩村が現れ、事件の謎を解決していく。彼こそは怪獣専門の警視庁特別捜査官だった・・・

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 1954年に初の「怪獣」被害を受けた日本。その後世界のあちこちに怪獣が出現するようになった。特異的に怪獣出現が多かった日本は「怪獣省」を設置し、早期発見・進路予測・殲滅兵器の開発などに注力してきた結果、怪獣の迎撃態勢を確立していた。

 怪獣の上陸は日本人の生命・財産を危機に陥れる緊急事態だから、迎撃時の怪獣省大臣は、臨時とは云え総理大臣に匹敵する権限を行使できる重要ポストという設定だ。

 主人公の岩戸正美(いわと・まさみ)は、怪獣省怪獣対策局に所属する予報官。出現した怪獣の種類を特定、進路を分析し、最適な殲滅方法を立案するという、怪獣迎撃作戦の司令塔となる役職だ。

 しかしその任務の最中、彼女はしばしば奇妙な事態に遭遇する。怪獣殲滅現場で見つかる不審な遺体や行方不明者・・・

 そんなとき、ヨレヨレのコートをなびかせる中年男・岩村秀治(ふなむら・しゅうじ)が現れ、事件の謎を解決していく。彼は怪獣専門の警視庁特別捜査官と名乗るのだが・・・


「第一話 風車は止まらなかった」

 太平洋を北上する怪獣グランギラスが発見された。身長53m・体重23000t で、静岡県沿岸部に向かっている。グランギラスの進路上には、風力発電の風車群が存在していた。岩戸は直ちに風車の停止を要請、管理する人員の避難を命じた。
 結果としてグランギラスは殲滅されたものの、風車群の一部は壊滅、さらに遺体が一つ発見された。
 岩戸の前に現れた船村によると、死んだのは自然エネルギー開発企業『エナジオ』の顧問・戸塚具樹(とつか・ともしげ)。そして彼は、怪獣が上陸する前に殺されていたのだという・・・


「第二話 殲滅特区の静寂」

 太平洋を北上する怪獣ラウゼンゲルン。岩戸は直属の上司・平田統制官から怪獣殲滅特区への誘導を命じられた。特区は怪獣殲滅用に用意された地区で、最新鋭の対怪獣兵器が集積されている場所だ。
 音に敏感なラウゼンゲルンのために、岩戸は特区に完全音響統制を実施する。結果として特区内での殲滅に成功するが、直前のラウゼンゲルンの動きに不審なものを感じた岩戸は迎撃時の記録を解析、全くの無音の世界と化したはずの特区内に銃声が響いていたことを突き止める。そして、特区近くの海岸から、銃殺された死体が発見された・・・


「第三話 工神湖殺人事件」

 1979年以来、地底怪獣の出現が起こっていない日本は「地底怪獣絶滅宣言」をしたが、最近になって青森県の工神湖(こうじんこ)地区では、謎の振動と怪獣らしきものの目撃情報が挙がってきていた。そして怪獣省対策局の索敵班長・長草春男(ながくさ・はるお)は独断で現地へ調査に向かい、消息を絶っていた。
 岩戸は平田統制官の命で、怪獣情報の確認と長草班長の行動を追うため、工神湖を訪れた。観光ブームが去って寂れた工神湖で、唯一営業を続けている工神ホテルに投宿した岩戸だったが、宿泊客の一人が殺されるという事件が起こる・・・


「第0話 怪獣チェイサー」

 上陸した怪獣に対してギリギリまで接近してカメラを回し、その映像を動画サイトに投稿して稼ぐのが「怪獣チェイサー」だ。
 「第一話」の2年前、怪獣チェイサーの一人である星野研介(ほしの・けんすけ)と岩戸が出会うエピソードを描く番外編。


 怪獣迎撃部分では岩戸が主役、そして怪獣殲滅の影で起こっていた犯罪捜査では船村が主役で岩戸は助手的立場に回る。『ウルトラQ』と『刑事コロンボ』を足したようなシリーズだ。どちらも好きな人なら「一粒で二度美味しい」思いが味わえるだろう。

 怪獣省関係では遊び心も満載。怪獣省大臣が ”土屋昭彦”、怪獣対策局統制官が ”平田嘉男” というネーミングでピンときたら、あなたはわたしの仲間です。

 歴代総理の中には ”田崎潤” なんて名前があったりと感激もの。それに加えて、対怪獣兵器の中には ”M8000TCシステム” なんてのがあったり。作者はわかってる。
 それ以外にも細かいところでいろいろ仕込んであるので、探すのも一興だろう。

 船村も特別捜査官なんて名乗ってるが、実は長ったらしい(なおかつ強力な)肩書きをもっている。事件の黒幕を前に、正式な官名で名乗りを挙げ、相手の罪状を告発していく下りは『水戸黄門』や『遠山の金さん』のような往年のTV時代劇を彷彿とさせる痛快さ。いやあ面白い。

 本書はシリーズ化されていて、第二巻の刊行もアナウンスされている。星野研介の再登場も期待したいな。

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