死はすぐそばに



評価:★★★★

 ロンドンの高級住宅地で、投資マネージャーのジャイルズ・ケンワージーがクロスボウの矢を喉に受けた死体となって発見された。そこは外部と隔てられた一画に被害者を含めて6世帯が住む場所。すべての住人に動機がある事件に、探偵ホーソーンが挑む。
 〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ、第5作。

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 ミステリ作家ホロヴィッツは、探偵ホーソーンとともに事件の捜査に関わり、その経緯を4冊の「ホーソーンもの」として書き継いできた。

 そして出版社との契約で新作を書かなければならなくなってしまったのだが、あいにくホーソーンは現在事件を抱えていなかった。そこで彼が過去に解決した事件のことを書くことに。

 それは二人が出会う前に起こった事件。

 現場はロンドンの高級住宅地で、外部と隔てられた一画に被害者を含めて6世帯が住んでいた。
 全盛期を過ぎたチェスのグランドマスターとその妻、医師と宝飾デザイナーの夫婦、男やもめの元法廷弁護士、共同で書店を経営する老婦人二人組、歯科医の夫と難病を抱えたその妻。

 それまで穏やかな暮らしを送っていた住人たちだが、そこへ引っ越してきた投資マネージャーのジャイルズ・ケンワージーの傲慢で自分勝手な生活ぶりに、平穏をぶち壊されてしまっていた。
 その傍若無人振りに耐えかねた住民たちは、ジャイルズとの話し合いの場を設けたが、彼はそれをドタキャンしてしまう。そして翌朝、クロスボウの矢を喉に受けたジャイルズの死体が発見される。クロスボウは歯科医のものだったが、住人なら誰でも持ち出すことはできた。すべての住人とその家族に、動機と犯行の機会がある事件だった。

 ホーソーンは助手のジョン・ダドリーとともに調査を進めていくことになった・・・

 最終的にホーソーンによって真相は究明されたが、彼自身はその解決に満足していないようだ。ホロヴィッツは事件に関する資料一式を受け取ったものの、事件そのものについてホーソーンは多くを語らない。助手のダドリーについても同様。なぜ彼は去ったのか? いま彼はどうしているのか? それについても口を濁してしまう。


 というわけで、いままでの4作では同時進行中の事件をホロヴィッツの一人称で綴ってきたのだが、本作では過去の事件を三人称で語ることになる。

 とはいっても、資料のみを材料に書くだけでは好奇心を抑えられないホロヴィッツは、独自の調査も始める。だから本書は、本編の合間にホロヴィッツ自身の一人称のパートも含まれる。

 事件のあった住宅地へ実際に行ってみて、まだ残っている住人に話を聞いたり、ダドリーの消息を求めてホーソーンのことを調べようとしたり。その中で、事件の小説化をやめるよう警告をする者に出くわしたり。


 毎回、よくできたフーダニット・ミステリのシリーズで、毎年のミステリ・ランキングを賑わしている。

 本作はいままでと語り方が異なる。目先を変えるという意味もあるのだろうが、最期まで読んでみると、この方式を選んだ理由が分かる。
 どういうことかを書いたらネタバレになってしまうので、興味がある人は読んでください。最後の最後まで気が抜けないストーリーになっている、とだけ書いておこう。


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