急行霧島 それぞれの昭和



評価:★★★☆

 昭和36年11月、母を亡くした上妻美里は、鹿児島発東京行きの急行「霧島」へ乗り込む。生き別れとなった父親に会うために。
 しかしその車内には傷害犯や伝説のスリ師と、彼らを追う官憲もまた乗り込んでいた。そして美里の隣席には、何やらワケありそうなお嬢様が。
 様々な人々の思惑を載せて、列車は一路東京へと走る。まるまる一昼夜を超える長旅が始まった・・・

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 太平洋戦争のさなか、鹿児島で生まれた上妻美里(こうづま・みさと)。軍人だった父は南方へ出征したが、戦後の混乱もあって母との再会が果たせないまま時が過ぎていった。

 中学校を卒業した美里は、本屋で働きながら夜は母の経営する居酒屋を手伝っていた。ある日、店の客から偶然、父の情報がもたらされた。復員した父は東京で結婚して家庭を持っているという・・・

 やがて母は病で亡くなり、店を閉めることにした美里。居酒屋の客を通して母の死を知った父から、上京の誘いが列車の切符とともに届く。天涯孤独となった美里は父に会うべく、急行「霧島」の乗客となった。

 時は昭和36年11月。急行「霧島」は鹿児島を15:55発、東京到着は翌日の18:20。26時間を超える長旅だ。

 しかしその「霧島」には、逃亡する傷害犯を追う二人の刑事が、そして伝説のスリ師と呼ばれる男を捕まえるべく二人の鉄道公安官が、それそれ乗り込んでいた。
 そして美里と隣り合わせの席になった前田靖子(まえだ・やすこ)は、化粧も服装も持ち物も垢抜けた、明らかに良家のお嬢様とわかる女性だった。目的地も美里と同じ東京だが、どことなくワケありな雰囲気を漂わせている。

 美里と靖子、車内で傷害犯を探す刑事、スリ師を見張る公安官、三つのストーリーが並行して進行していく。それに伴い様々なトラブルも発生し、それに対応すべく奮闘するのが車掌をはじめとする乗務員たちだ。

 三つのストーリーは時に交錯し、美里自身がそれに巻き込まれて身の危険にさらされたりと、なかなか波乱に満ちた旅を経験していくことになる。

 「霧島」自体についても、当時の状況を踏まえて細かく描写されている。食堂車や寝台車の様子、途中で蒸気機関車から電気機関車に換装されたり(東海道線は既に電化済み)、車両が連結されて長くなったりと、このあたりは鉄道ファンにも嬉しいのではないかな。

 26時間の旅の間に、美里以外の物語はそれぞれ決着がついていく。そして終着駅・東京では美里自身の旅が終わると同時に、エンディングでは新たな物語の始まりも予感させる。


 このあたり、わかっているのだがちょっと目がウルウルしてしまった。歳をとると涙腺が緩くなってしまうんだよねぇ・・・


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