ダ・ヴィンチの翼



評価:★★★☆

 16世紀のイタリア半島。フィレンツェ近郊に住む少年コルネーリオは、森の中で負傷した男を救う。彼はフィレンツェ共和国の密使だった。共和国の存亡を賭けてレオナルド・ダ・ヴィンチの残した兵器の設計図の争奪戦が始まっていたのだ。自らも治癒の力をもつコルネーリオもまたその渦中に巻き込まれていく・・・

 第5回創元ファンタジィ新人賞で佳作受賞した『ヴェネツィアの陰の末裔』でデビューした作者の第二作。

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 本書は前作『ヴェネツィア-』と同一世界・同時代を舞台にしている。舞台は中世のヨーロッパ。

 概ねこちらの世界と同じ歴史をたどっているが、異なるのは、様々な ”超常の力” を持つ者が存在すること。彼らは ”魔術師” と呼ばれ、激しい弾圧を受けている。
 しかし唯一、ヴェネツィアだけは彼らの存在を認め、”諜報要員” として活用しているという設定だ。ファンタジー世界のなかに007のようなスパイ・アクションの要素を持ち込んだ、ともいえるだろう。


 1529年、フィレンツェ近郊トスカーナに住む少年コルネーリオには、生まれつき ”治癒の力” が備わっていた。しかし超常の力ゆえに世間から隠れるように棲んでいた

 ある日、コルネーリオは森の中で負傷した男を救う。彼の名はアルフォンソ。フィレンツェ共和国の密使だった。彼の使命は、周辺の強国の脅威が迫って存亡の危機を迎えつつある共和国のために、レオナルド・ダ・ヴィンチの残した兵器の設計図を見つけ出すことだった。しかし敵国もまたそれを狙っての争奪戦が始まっていたのだ。

 アルフォンソは設計図の在処を示すダヴィンチの暗号詩を手に入れていた。それを解いたのは、コルネーリオの幼馴染みで博識な少女フランチェスカだった。

 コルネーリオ・アルフォンソ・フランチェスカの三人はトスカーナを出て、追っ手を躱しながら暗号詩が示す場所・ヴェネツィアを目指すのだが・・・


 巻末の後書きによると、本作はもともと前作の続編として構想されたらしいが、紆余曲折を経て単独の作品となった。だから前作の主役カップルはワンカットだけ、ほとんどモブキャラ扱いで登場している。
 その代わりというわけでもないだろうが、前作ではちょい役だった魔術師ヴィオレッタとその護衛剣士フェルディナンドは、後半でコルネーリオたちと行動を共にすることになり、登場場面もぐっと多くなった。

 この二人以外には、アルフォンソの仲間であるフィレンツェの密偵グリエルモとエミーリオ、フランス王の密偵セヴランが加わる。エミーリオはやたらコルネーリオを目の敵にしたり、セヴランは腹に一物抱えていそうな胡散臭さ満点となかなかキャラ立ちもいい。

 彼らの追跡者で、かつ設計図を巡って争うのが、神聖ローマ皇帝カール五世臣下のグスタフと、教皇クレメンス七世の遣わした暗殺者サリエルと強敵揃い。


 剣戟シーンはもちろん、前作から引き続いて、この世界独特の魔術を交えた戦闘シーンもあり、アクション描写も迫力十分。

 実在の人物としてはミケランジェロが登場する。歴史好きな人には嬉しいサービスかも知れない。

 終盤ではコルネーリオ自身の治癒の力が大きな意味を持ってくるなど、ファンタジーとしてもしっかりできあがっている。彼の行く末についても読者は気になるところだろう。

 ダヴィンチの残した ”兵器” の正体も明らかになる。こちらも荒唐無稽なものではなく、ある程度納得のいくものになっていると思う。

 前作とはストーリー的には独立しているが、この世界の物語がこのまま展開されていくのなら、前作の主役カップルの再登場も期待したいところ。コルネーリオとの共演なんてのもありうるかも知れない。続きが楽しみなシリーズになったと思う。


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