堕天の誘惑 幽世の薬剤師



評価:★★★

 異世界・幽世で暮らす薬剤師・空洞淵霧瑚は、祓い師の朱雀院から相談を受ける。孤児院の子どもたちの間に謎の遊びが流行り、その最中にパニック症状に陥る子が出ているという。調査に乗り出す空洞淵だったが・・・

 異世界医療ファンタジー、第二部第二巻(通巻8巻目)。

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 異世界・幽世(かくりよ)で暮らす薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)が、奇怪な病的現象を現代医学の知識を応用して解決していくシリーズ。怪異を祓う力を持つ巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とは恋人関係になっている。

 冒頭は、その綺翠が見知らぬ誰かと親しげに言葉を交わすシーンを空洞淵が目撃してしまうところから始まる。その相手はキャソック(カトリックの僧服)を着た男性だった。

 心穏やかでない空洞淵だったが、祓い師の朱雀院(すざくいん)から相談を受ける。孤児院の中で『エンジェルさん』なる謎の遊び(中身はいわゆる『こっくりさん』と同じ)が流行り、その最中にパニック症状に陥った子どもが出ているという。

 その孤児院は教会に併設されており、そこの神父が冒頭に登場する人物だ。名はルシフェル・リーンフィールド。彼の双子の妹ヱリカはシスターをしていて、二人で教会と孤児院を切り回している。
 そして、三ヶ月前からその孤児院で暮らす天(ソラ)という子どもがパニック症状を起こしているらしい。原因の調査を始める空洞淵だったが・・・


 ルシフェルと綺翠の仲を心配する空洞淵だが、シリーズを読んできた人からすれば、彼女が浮気をするようなキャラではなく、まして二股を掛けるなんて器用な芸当ができようもない人だと分かっているだろう。それでも心配してしまうのが恋する人間というものなのかも知れないが。

 シリーズ読者にとって楽しいのは、セミレギュラーの朱雀院くんの出自や名前の由来、特に下の名が明らかになるところだ
ろう。ネタバレになるので書かないけど、彼に似合わぬ(失礼!)いい名前なので笑ってしまう人もいるかも知れない。

 ミステリとしてのキモは、ルシフェル(名前だけで訳ありそうな雰囲気が横溢しているが)とヱリカの兄妹の秘密だろう。ファンタジー要素と医学的要素、そしてミステリ要素が一体となったもので、これはなかなかよくできてると思う。


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