評価:★★★☆
昭和13年、浅草。残忍な通り魔事件が巷を騒がせていた頃。
人気の歌舞伎一座・猿田屋は襲名披露興業を行っていた。しかしその最中、猿田屋の内儀が殺される。その遺体の状況は通り魔事件の被害者と酷似していた・・・
盲目の弁護士・朱雀十五の活躍するシリーズ、第6弾。
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昭和13年、浅草。舞台となるのは人気の歌舞伎一座、猿田屋(さるたや)。主要なメンバーは菊(きく)と梅(うめ)という双子の媼(おうな:老女)と、彼女らの子や孫たちで構成される、同族集団だ。
一座の看板役者は ”富太郎”(とみたろう)を名乗る。いまは菊の孫がその名を継いでいた。その富太郎が、大名跡の大左衛門(だいざえもん)を継ぐことになった。”富太郎” の名は当代の弟・富之助(とみのすけ)が継ぐことになり、一座はダブル襲名披露に向けて準備を進めていた。
折しも、浅草界隈では残忍な連続通り魔事件が発生していた。被害者はいずれも腹を切り裂かれ、内臓がなくなっていた。野犬に食い荒らされたか、犯人が持ち去ったのか。
朝日新聞の記者・柏木洋介(かしわぎ・ようすけ)は猿田屋の襲名興行を取材することになった。襲名は三日間、昼は興業、夜には外部の人間をシャットアウトし、一座の者のみが関わる ”儀式” が行われる。
その昼興業の最中、一座の内儀で富太郎の母・三津代(みつよ)が殺害される。遺体は下腹部が切り裂かれて腸が露出していた。右手には包丁が握られ、あたかも自らの内臓を切り刻んでいたかのようだ・・・
しかし襲名興行は続行される。夜には一座の者だけで舞台に上がり、灯りのない真っ暗闇の中で、一座に伝わる ”猿楽の舞” を舞う。そのさなか、梅の孫の長十郎(ちょうじゅうろう)が、首を剣で刺し貫かれて殺される。しかし一寸先も見えない闇の中で、どうやって狙いをつけることができたのか・・・
冒頭に語られるのは、猿田屋が ”守護神” として祀る『御柱様』(ミハシラサマ)というあやかしの存在。猿田屋の本家に嫁いできた嫁は、その勤めとして毎日、肉を刻んで蔵の地下の『御柱様』に捧げる、という儀式を行わなければならない。
この ”肉を切り刻む” シーンは作中何度か出てくるのだが、独特の擬音を交えた描写といい、蔵の地下に蠢く謎の存在といい、なんともホラーな雰囲気を醸し出している。
この奇怪かつ不可解な事件を解き明かすのは、盲目の弁護士・朱雀十五なのだが、彼が本格的に乗り出してくるのは終盤に入ってから。それまでは主に柏木洋介と、朱雀の義妹・律子(りつこ)の二人が事件を追っていく。
朱雀十五のシリーズは、1998年に徳間ノベルスから始まった。文庫での刊行が始まったのは2000年からで、第五作まではそちらで読んでた記憶がある。そこから読むのをやめてしまったのは、単に文庫化が止まってしまったからだろう(おいおい)。
本書は2005年に出たのだが、19年の時を超えてやっと文庫になった。というわけで読んでみたのだが・・・
著者の作風は、ホラーな舞台や道具立てを用意し、そこで起こる怪奇性満点の事件を合理的科学的に解き明かしていく、というもの。『バチカン奇跡調査官』シリーズも、この『朱雀十五』シリーズも同様だ。
本書における最大の謎は、『御柱様』に見られるような ”肉への執着” だろう。切り刻んだ肉を捧げたり、死体の下腹部を切り裂いて内臓を持ち去ったり。
そしてそれに次ぐのが、真っ暗闇の中での狙い澄ましたピンポイントの殺人だろう。
そしてそれに次ぐのが、真っ暗闇の中での狙い澄ましたピンポイントの殺人だろう。
『陀吉尼の紡ぐ糸』に始まる初期の作品では、事件の怪奇性と真相の合理性ががっちりとかみ合って、読んでいて「そうだったのか!」って驚かされた記憶がある。
しかし本作では、そのあたりがどうにも弱くなってしまったように感じる。
『御柱様』を解明するキーワードとなる○○○○○○なる単語だが、寡聞にして私は知らないんだよねぇ。分からないからネットで検索してしまったけど、ヒットしないんだよね。もしこれが作者の創造した架空の存在だったら、ちょっと都合良すぎて、ミステリの謎解きとしては如何なものか、という思いがする。
そして暗闇の中でのピンポイント殺人。これも説明自体は一行というか一言で済んでしまう。「いやぁいくらなんでもそれはすご過ぎでしょう」「言うは簡単だけどそんなことできるんかいな」・・・って感じるのは私だけだろうか。
それでも、メインの殺人を支えているいくつかの細かいトリックはよく考えられてるように思うので、なおさら残念な感じがする。
『御柱様』を解明するキーワードとなる○○○○○○なる単語だが、寡聞にして私は知らないんだよねぇ。分からないからネットで検索してしまったけど、ヒットしないんだよね。もしこれが作者の創造した架空の存在だったら、ちょっと都合良すぎて、ミステリの謎解きとしては如何なものか、という思いがする。
そして暗闇の中でのピンポイント殺人。これも説明自体は一行というか一言で済んでしまう。「いやぁいくらなんでもそれはすご過ぎでしょう」「言うは簡単だけどそんなことできるんかいな」・・・って感じるのは私だけだろうか。
それでも、メインの殺人を支えているいくつかの細かいトリックはよく考えられてるように思うので、なおさら残念な感じがする。
上にも書いたが、とても楽しませてもらったシリーズだけに、期待して読んだんだけど、ちょっと当てが外れたかなぁ。
それでも、次作が出たら読むとは思います。やっぱりこの作品世界が好きだから。律子さんのキャラも気に入ってるし(笑)。
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