幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする



評価:★★★

 理系大学生の谷原豊は、鵜沼ハルという謎の女性と出会い、彼女の仕事である霊媒師の助手というアルバイトをすることになった。
 ハルと一緒に慰霊を続けるうちに、谷原は彼女と街に潜む秘密に気づいていく・・・

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 主人公兼語り手は、大学に入学したばかりの谷原豊(たにはら・ゆたか)。学部は理工学部。学科名は具体的に語られていないのだけど、物理のレポートを書いたり量子化学の教科書を開くシーンがある。うーん、どこだろう? やっぱ化学系かな?

 本書における谷原とハルの物語は、2019年~20年初頭にかけて、いわゆるコロナ禍の直前の時期の話だ。

 物語はコロナ禍が収まった頃(おそらく2024年)、大学院の(たぶん)2年生となった谷原が過去を回想するという形式で語られる。


 入学直後の2019年4月、谷原のひいばあちゃん(曾祖母)の千代子(ちよこ)が亡くなった。享年100歳。老衰での大往生だった。

 そして5月、ひいばあちゃんの弔問に訪れたのが鵜沼(うぬま)ハルだった。外見は40歳前後なのに「千代子ちゃんとは女学校の同級生だった」と名乗り、仏壇を相手に長々と世間話を始める。なんと職業は霊媒師だという。
 胡散臭さ満開なのだが、彼女の話の内容には、たしかに千代子の霊と会話しているんじゃないかと思わせる要素もあった。

 それがきっかけとなり、谷原はハルさんの助手としてアルバイトをすることになった。彼がすることは、飛行機のチケットを取ったり、路上でエアバッグを膨らませたり、川に浮き輪を投げたり、空き地で錠剤を燃やしたり。

 およそ霊媒師と関係なさそうだが、ハルさんに云わせれば、これはみな ”慰霊” につながる行為なのだという。ちなみに谷原自身は霊の存在を信じていない。あくまでバイトと割り切ってハルさんにつきあってる。

 登場人物もなかなかユニークだ。谷原が通っている大学の文学部講師(見た目は学生で通る)の高野由紀子(たかの・ゆきこ)、ハルさんの ”娘” だという女子高生のサクラ、そして谷原の幼馴染みで現在浪人中の西田世紀(にしだ・せいき)。
 後半ではハルさんの ”正体” が(サクラとの関係も含めて)明らかになり、谷原は西田とともに彼らの住む街に隠されていた ”秘密” の一端に迫っていく。


 谷原はしばしば母親から「他人の気持ちが分からない」と言われるが、コミュ障というほどではないし、格別に鈍感なわけでもない。ただ、物事の感じ方がちょっと人と異なるところがある。それは本人も自覚していて、人間関係に悩むこともある。

 彼の感性は彼なりに首尾一貫したもので、そこが読んでいて面白いポイントでもある。そんな彼が高野やサクラ、西田と交わす、かみ合ったりかみ合わなかったりする会話も読みどころだろう。
 そして、自分とは異なる感性の人たちと関わっていくことで、彼自身も少しずつ変化していく。

 本書はジャンル分けが難しい。SFのようでもありファンタジーのようでもあり。霊を扱っているのでホラー要素もあるし、青春小説の要素もある。

 続編はなさそうな終わり方なのだけど、短編でもいいから、1~2年先くらいの後日譚が知りたいな、とも思った。まあ、ここで終わらすのが綺麗なのかも知れないが。


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