奇岩館の殺人




評価:★★★☆

 孤島に建てられた洋館・奇岩館にやってきた青年・佐藤。そこで猟奇的な連続殺人事件が起こる。しかしそれは「探偵」役のために用意された、実際に殺人が行われるという究極の参加型推理ゲームだった。
 自分は「被害者」役なのでは? と気づいた佐藤は、自分が殺される前にゲームを終了させるべく、奮闘を始めるのだが・・・

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 日雇い労働者だった青年は、カリブ海の孤島にやってきた。そこにある洋館・奇岩館(きがんかん)で三日間過ごすと百万円がもらえるという高額報酬のアルバイトに惹かれたのだ。

 ただし条件があった。「旅行者の佐藤」と名乗ること、他者と極力関わらないこと、バイトで来ていることを口外しないこと、そして ”何があっても” 役割を続けること。

 そこでは、実際に殺人事件を起こし、「探偵」役となった客に究極の推理ゲームを提供する「リアル・マーダー・ミステリー」というイベントが行われていた。

 顧客となるのは、ミステリー・マニアの大富豪。数億円の参加費を払うことで、自分自身が事件の中で ”名探偵になる” という夢が体験できる。
 館の執事・小園間(こえんま)をはじめとする使用人たちは、イベントを進行させるための裏方を兼ねている。

 そして集まってきた滞在客は、「被害者」役、「容疑者」役、そして「犯人」役と「探偵」だ。

 「被害者」と「容疑者」はそれぞれ複数用意されているが、みなアルバイトとして呼ばれていて、誰もゲームの全貌は知らない。もちろん「被害者」役は、自分が殺されるとは思ってもいない。

 物語は ”出演者” である佐藤の側と、裏方である小園間の側が並行して描かれていく。

 予定どおりに殺人事件が始まり、何も知らずに驚く佐藤だったが、あることをきっかけにゲームの存在を知ることになる。

 自分も「被害者」役として殺されるかも知れない。ならば、自分が殺される前にゲームを終わらせるしかない。それにはいちはやく「犯人」を突き止め、さりげなく「探偵」に伝えればいい。しかも、あくまでも探偵には自力で解決したと思わせなければならない。しかしそれが一番難しい・・・

 一方、小園間たちスタッフも焦っていた。序盤で大きなアクシデントが発生してしまったのだ。ストーリー担当の「ライター」とともに内容を修正しつつ、予定どおりの進行を目指す小園間だったが・・・


 「リアルな殺人ゲーム」というのは映像の世界ではあったかも知れないが、小説では珍しいのではないかな。

 「探偵」より早く真相を突き止めるというミステリ要素はあるものの、終盤は佐藤のサバイバルに焦点が当てられたサスペンス展開になっていく。

 もともとミステリ好きではあったが、大学にも行かず定職にも就かずのモラトリアム人間だった佐藤が、殺人ゲームの舞台に放り込まれ、知力体力を振り絞って生存の道を探っていく。終わってみれば、彼の意外な成長の物語でもあったりする。

 「奇岩館」というネーミングはアルセーヌ・ルパンシリーズの長編「奇岩城」から来ているし、作中で起こる殺人も江戸川乱歩や横溝正史がモチーフになっていたりと、古典ミステリが好きな人には細かいくすぐりが多い。
 ミステリとしてはかなりの変化球だけど、たまにはこんな作品もいいかなと思わせる。こういう作品ばかりだと困るが(笑)。


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