評価:★★★★
三人組の女性地下アイドル「ベイビー★スターライト」。しかしメンバーの一人が殺人を犯してしまう。しかしアイドルを続けるために、三人は結束して隠蔽を図る。なんとか死体を山中に埋めることに成功するのだが・・・
第22回(2023年)「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリ受賞作。
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大阪を地盤にする女性地下アイドル「ベイビー★スターライト」。結成時のメンバーは7人だったが、入れ替わりが激しく現在は3人で活動している。
主人公兼語り手を務めるのはルイ。彼女だけが結成時から残っているメンバー。人気も今ひとつで23歳という年齢もあり、そろそろ引退を考えている。
テルマは19歳。コテコテの大阪弁だが、アイドルとして大成することを目標に努力を怠らない。しかしセンターの座を新入りのイズミに奪われて正直なところ面白くない。
そのイズミはアイドルとしての容姿に恵まれていてグループ内では一番の人気。大阪の一等地に住み、お嬢さん大学に通う19歳だが、恋人からDVを受けているという悩みを抱えている。
コンサートを終えた「ベイビー★スターライト」だが、ルイとテルマだけが事務所の社長・波浦(はうら)によって北新地の料亭へ連れて行かれる。
コロナ禍で仕事が減り、事務所が抱えたアイドルは「ベビ★スタ」のみ。社員も波浦を除けば一人しか残ってない。事務所存続のため、波浦はイベント会社社長相手の営業、いわゆる「接待」へ二人を狩り出したのだ。
ガマ蛙に似たイベント会社社長のセクハラから逃げだした二人のもとへ、イズミから電話が入る。事務所へやってきた二人が見たのは波浦の死体とイズミの姿だった。
アイドル活動を続けるために、ルイとテルマはイズミの殺人を隠蔽することを決める。
波浦の死体を運び出し、京都と兵庫の県境にある山中に埋めるという難事をなんとか成し遂げる。波浦は長期の旅行に出たように装った。
しかし事務所のただ一人の社員で、三人のマネージャーを務める土井(どい)は波浦の不在を怪しみ、私立探偵を雇って調べ始める・・・
物語は、犯行を隠そうとする三人の側から描いた倒叙サスペンスとして進行する。
もともとバラバラで反目すらしていた仲だった三人だったが、波浦の不在を怪しむ者が現れるたびに、三人は結束してそれを乗り越えていく。
だがそもそも、なぜテルマとルイは隠蔽に協力するのか。
テルマはアイドル活動に人生を賭けているからまだ理解できるが、引退を考えていたルイが協力するのはなぜか。
作中でルイが「私は人を殺したことがある」と口にするシーンがある。ストーリーが進行するにつれて徐々に明らかになっていくのだが、彼女はなかなか壮絶な過去を背負っていて、それが彼女の行動に説得力を与えている。
しかし、行き当たりばったりの彼女らの計画には、実は穴がいっぱいある。私でもひとつふたつは気づいたくらいなので、ミステリを読み慣れた人ならもっとたくさん指摘できるだろう。だから警察が本気で捜査にかかればあっという間に露見してしまうとも思う。だが幸か不幸か(?)、警察が動き出す気配はないまま、物語は終盤に突入していく。
ラスト近くになると、意外なところから彼女らの犯行に気づく人物が現れ、「ベビ★スタ」は最大の危機を迎える。三人の運命やいかに?
とにかく三人のキャラ立ちが素晴らしい。ポンポンと飛び交う会話も楽しく、文章もテンポ良く読みやすい。バラバラだった三人の心が事件を通じて次第にひとつになり、アイドルの頂点を目指していく覚悟が定まっていくあたりは、(犯罪者集団なのだが)心情的には応援してしまいたくなってくる。
そして先の見えない展開に、ページをめくる手が止まらない。すいすい読めて、気がつけば残りページの少なさに驚いてしまうくらい。新人ながら、本書のリーダビリティは抜群だ。
偶然だろうが、芸能界における「接待」も絡んでいて、いま読むとけっこうタイムリーな作品にも感じる。しかし時事的なその部分を抜きにしても、デビュー作でこの完成度は素晴らしいと思う。次作に期待してしまう。
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