バチカン奇跡調査官 ウエイブスタンの怪物




評価:★★★


 カソリックの総本山、バチカン市国。そこには、世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対してその真偽を判別する調査機関『聖徒の座』がある。
 そこに所属する天才科学者の平賀と、その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第24弾。

 短編集としては7巻目。外伝的な短編3作+番外編1作を収録。

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「貧血の令嬢」

 イタリアトップの食品メーカーの社長カールミネ・スカッピが稀覯本を持っているとの情報を得たロベルト。それを見せてもらおうと社長に会いに行ったロベルトは、交換条件を示される。
 社長の12歳の孫娘チェレスフィーナは好き嫌いが激しく、しかも少食ですぐに体調を崩してしまう。「彼女が気に入る食事を作れたら稀覯本を見せよう」
 スカッピ家の晩餐に招かれたロベルトは、チェレスフィーナの食事の様子を見て、献立を考え始めるのだが・・・
 平賀という偏食家が身近にいるために(笑)、メニュー開発は順調に進むのだが、本作でいちばんのサプライズは稀覯本の内容と、それを知った時の平賀のリアクションだろう。


「ウエイブスタンの怪物」

 平賀の従兄弟ウイリアムが結婚式を挙げることになり、ロベルトとともにイギリスのウエイブスタンへとやってくる。そこは『死の森』と呼ばれる森林地帯があり、全身が黒い毛で覆われた二足歩行のUMA(未確認生物)が徘徊しているという噂の地だった。
 結婚相手はウエイブスタン子爵家の令嬢アドレイド。招待客にはFBI捜査官のビルと秘密工作員エリザベートのカップルもいた。
 翌朝、屋敷の温室で招待客の一人が死体で発見される。衣服はズタズタに裂け、内臓がはみ出した状態で。そして屋敷の防犯カメラには、2mを超える怪物が映っていた・・・
 平賀たち4人が捜査にかかる。なかでもエリザベートは「こんなこともあろうかと持参してきた」と、次から次へと物騒なものを取り出してみせる。ドラえもんの四次元ポケットみたいである。あんたいつもそんなもの持ち歩いてんのか?と聞きたくなる。
 ホラーな序盤だが、解明は合理的という本シリーズのフォーマット通りに決着がつく。ただ、怪物の正体については評価が分かれるかも知れない。まあそれもこのシリーズの持ち味か(笑)。


「受難のカーニバル」

 1月28日はローマのカーニバル(謝肉祭)の日。ロベルトと平賀はバチカン情報局の同僚、チャンドラ・シン博士からディナーに招待された。しかし食事の終わった後、二人は博士の屋敷に閉じ込められてしまう。
 博士がいうには、彼の大叔母が占星術師で、予知夢を見たのだという。「若い二人の神父が大剣に刺される」のだと。
 しかしロベルトと平賀は屋敷を抜け出し、カーニバルの喧噪のなかに逃げ込むのだが、そこで立て続けにトラブルに見舞われて・・・
 予知夢に反発して逃げ出したにもかかわらず、なぜかしっかり ”夢のお告げ” が成就してしまう顛末をコメディタッチで描いた作品。
 数学者のシン博士に占い(予知夢)を信じさせてしまうなんて、どんな大叔母さんなんだろう。ぜひ本編に登場してもらいたいものだ。


「番外編・遭遇者たち」

 ロベルトと平賀が作者のもう一つのシリーズの主役・朱雀十五(すざく・じゅうご)と出会うという番外編。
 奇跡調査のために、ローマ近郊のネミ湖にやってきたロベルトと平賀。湖畔にいた怪しい男に近づいた二人だが、彼が持っていた謎の機械を操作すると、不思議な世界へと迷い込んでしまう・・・
 そもそもこの二つのシリーズは時代も舞台も異なる(朱雀が活躍するのは太平洋戦争前の日本)ので、この二つを絡めるには時空を超える必要がある。
 というわけで、SFというかファンタジーっぽい手法でやや強引に(笑)二つのシリーズをつなげている。その出来について云々するより、読者サービスに特化した作品だと割り切って楽しむのが正しい読み方だろう。


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