評価:★★★★☆
16世紀。交易国家ヴェネツィアは魔術師による諜報組織をつくりあげていた。ハプスブルクによる元首暗殺計画は、それを察知した魔術師たちによって阻止されたが、それは巨大な陰謀の始まりに過ぎなかった・・・
第5回創元ファンタジィ新人賞佳作作品。
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時は16世紀。キリスト教世界に於いて魔術師は弾圧の対象だったが、ヴェネツィアのみが魔術師を利用した諜報組織〈学院〉をつくり上げ、大国の間での生き残りを図っていた。
主人公ベネデットは、11歳で孤児院に入るまでの記憶がない。そこで魔術の力を発動させた彼は〈学院〉に送られ、魔術師の修行をすることに。そして17年後のいまは〈学院〉の一員となっていた。
ハプスブルクによるヴェネツィア元首の暗殺計画を察知した〈学院〉はその阻止に成功するが、暗殺者たちの入国にはフランス王の使節・ベルトランが関わっていたのではないかとの疑いが持ち上がり、内偵を開始する。
だが元首暗殺は巨大な陰謀の端緒に過ぎなかった。それを追うベネデットは内偵の過程で偽の情報を掴まされ、裏切りを疑われて〈学院〉から追われる身となってしまう・・・
冒頭の暗殺阻止の場面から、激しい魔術戦闘が描かれる。魔術を封じ込めた腕輪を武器とする独自のバトル設定がなかなか面白い。
この世界のヴェネツィアにおける魔術師たちは、要人警護・テロの阻止・尾行・内偵・潜入捜査と幅広い諜報活動を行う。巻末の選評にもあるがジェームズ・ボンドばりのスパイ組織と云える。〈学院〉の主催者にして魔術師の元締めであるセラフィーニはさしずめ ”M” の立ち位置だろう。
当然ながら戦闘が大きな要素を占めるので、魔術師たちも攻撃と防御の達人ばかりである。しかしながら、強力な魔術の発動には制約と限界があり、戦闘時には敵の刃から身を守ってもらう必要がある。そこで魔術師は護衛剣士とコンビを組んで行動することになる。
ベネデットの護衛剣士はリザベッタ。同じ孤児院で育った幼馴染みであり、血の盟約によって結ばれた魔術師の半身にして相棒、背中を護る剣だ。
ちなみに文庫の表紙イラストに二人が描かれている。手前でマントを羽織った金髪がベネデット、奥で短剣を持った赤毛の女性がリザベッタだ。
二人にはそれぞれ事情がある。本書の冒頭に描かれているのは、ベネデットがもつ幼少期の唯一の記憶だ。薄暗い地下室のような部屋で、母が歌声を聞かせてくれるシーン。ここがどこで、どんな状況を意味しているのか、ひいては自分はどんな出自を持つのか。ベネデットの心の片隅には常にこの疑問がある。
リザベッタにも、護衛剣士となった理由と目的がある。故郷を滅ぼし家族を殺した魔術師の女への復讐だ。そのために、ベネデットの護衛剣士になった。
二人はお互いに大事な存在と思ってはいるが、あえてそれ以上の関係に踏み出そうとはしない。今の ”戦友” という安定な状態のままでいることを双方が望んでいるようだ。
しかし後半に入ると陰謀のスケールはヴェネツィアだけに留まらない大きさになっていく。その中でベネデットの出生の秘密、リザベッタの復讐も、メインのストーリーの中へと収斂していく。
さらに終盤では、ベネデットとリザベッタの魂の絆が試される展開に。読み終わってみると、本書は極上のラブ・ストーリーでもあることがわかるだろう。
さらに終盤では、ベネデットとリザベッタの魂の絆が試される展開に。読み終わってみると、本書は極上のラブ・ストーリーでもあることがわかるだろう。
その気になれば続けられる終わり方になっているので、ぜひ続編を読みたいなぁ。期待してます。
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