評価:★★★
日本人の99%が働かず、政府から支給される生活基本金で暮らすようになった近未来。そんな世界のなかで主人公の目黒さんは残りの1%で、なんと「職安」で働いている。
そこにやってくるのは「ワケあって働きたい」という人たちだ・・・という、とぼけた味わいの近未来お仕事SF小説。
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AIの進歩で、人間の仕事のほとんどが自動化・ロボット化された近未来。
日本人は働かずに生活基本金(ベーシックインカム)を受け取って暮らす99%の〈消費者〉と、働く1%の〈生産者〉に分かれた。
だがそれでも「ワケあって働きたい」という〈消費者〉は一定数いる。そんな人たちに職業を斡旋する「職安」で、事務員として働くのが主人公・目黒奈津だ。
機械音痴で今ひとつつかみどころのない経営者・大塚晴彦のもと、目黒さんの仕事ぶりを描いていく、ユーモアたっぷりのSFお仕事小説。
「一章 未来職安」
寝坊した目黒さんは、あわてて自動運転のタクシーで出勤。職場は貸しビルの4階にある。自宅を使ってネット経由で仕事をすることが多い時代、わざわざオフィスを借りて、対面で行うのが大塚さんの方針だ。
やってきた依頼人にインドのムンバイでの日本料理店での仕事を紹介したり、「基本金アップ」を叫ぶ消費者デモを眺めたり、その参加者の一部が暴徒化して職安を襲ってきたり(おいおい)と、目黒さんの職場の日常(?)が描かれる。
「二章 未来就活」
目黒さんは三年前まで県庁で働いていた。それがなぜ職安の事務員に転職したのか、その経緯が語られる。
「三章 未来家族」
目黒さんの中学時代の同級生のうち、人口の1%しかいない〈生産者〉になったのは彼女ともう一人、神田歩由美(フユちゃん)のみ。今でも二人は親友としてのつきあいが続いている。
中学一年生の頃、目黒さんが〈消費者〉ではなく〈生産者〉を目指すことを決めた、その理由が明かされる。
「四章 未来作家」
目黒さんは、大塚さんが書店にいるところを見つける。この時代には珍しい、紙の本を扱っている店の名はタマチ書店。店主の田町さんは幼い頃にマンガ家を目指していたらしく、自作のマンガを並べるために書店を経営しているという。
大塚さんは、田町さん作のマンガを売り出すことにするのだが・・・
「五章 未来医療」
体調を崩して病院に二週間入院していた目黒さん。退院してきたらこんどは大塚さんが二週間の出張に出るという。その間、目黒さんはひとりで職安の仕事を回さなければならない。
そこへやってきた依頼人は、自分の子ども(クローン)を作るための資金を稼ぎたいと言い出すのだが・・・
「六章 未来雇用」
生活基本金の不正受給が問題化し、政府はその解決に乗り出すという。その一貫として、企業の給与支払い状況も調査をするという。
そのあおりで、大塚さんと目黒さんが働く職安にも監査が入るかも知れない。この職安には、バレると経営ができなくなるかも知れない ”ある事情” があった。
それを解決するために大塚さんが思いついたアイデアは・・・
人口の99%を占める〈消費者〉が受け取る生活基本金は、最低レベルを保証するのみで裕福な生活はできない。だからちょっとでもいい生活をしようとしたり、何かお金のかかることをしようとしたら、〈生産者〉になる(要するに働く)しかない。
というわけで、目黒さんの働く職安には依頼人がやってくるのだが、自動化・ロボット化が進んだこの時代では、一風変わったものというか、仕事と云えないんじゃないかというレベルのものしか人間には残されていない。そのいくつかは作中でも紹介されるが、これがまた呆れかえるようなもの。まあ、本書は基本コメディなのだからそれでいいのかも知れないが。
そんななか、目黒さんはとりあえず事務職には就いているので真っ当なほうではある。
もちろん、AIでは代替できない、人間本来の高度な頭脳労働は残っているが、それこそ〈生産者〉のなかでもほんの一握りの者しか就けない。
経営者兼上司である大塚さんは一風変わった人物で、目黒さんも働き始めた当初はそりが合わずに戸惑うばかりだったのだが、物語の進行に伴って慣れてきたのか、彼に対する評価も変わっていく。そのあたりの変化も面白い。
”仕事” がテーマのSFではあるのだが、本書の裏テーマは ”家族” ではないかと思う。
依頼人の抱えた ”働く事情” も家族に由来するものが多いし、目黒さんが〈消費者〉ではなく〈生産者〉になることを選んだのも、家族が原因だ。
そして全六話を通じて感じられるのは、目黒さんの家族というものへの ”向き合い方” が少しずつ変わってきていることだ。
その先は描かれていないので読者は想像するしかないが、100組の家族があれば、そのありようも100通りあるのかも知れない・・・と書いてきても、未読の人には何のことかわからないだろうなぁ(笑)。
そんなことを思いながら読み終えた。
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