評価:★★★★☆
大学時代の友人たち7人のグループが訪れたのは、山奥の地下にある施設だった。しかし地震が発生して出入り口が塞がれてしまう。さらには地下水が流入し始める。脱出する方法はあるが、それには誰か一人が犠牲になる必要があった。
そんな中で起こる殺人事件。犯人を突き止め、そいつに犠牲になってもらえばいい。かくして、命を賭けた犯人捜しが始まる・・・
各種ミステリランキングで上位を占めた傑作だ。
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主人公兼語り手を務める越野柊一(こしの・しゅういち)は、従兄弟の篠田翔太郞(しのだ・しょうたろう)とともに長野県の山奥へやってきた。大学時代の友人たち5人と会うためだ。
その一人である西村裕哉(にしむら・ゆうや)によると、歩いて行けるくらいの処に巨大な地下建築があるという。全員で出かけるがなかなか見つからず、入り口に辿り着いた時には日が沈んでいた。さらに、きのこ狩りに来て道に迷ったという親子3人が加わり、総勢10人となった一行は施設の中で一晩過ごすことに。
そこは地下三階まである巨大なもので、小さな部屋に細分化されており、まるで「方舟」のようだった。「70年代の頃の過激派のアジトじゃないか?」「カルト宗教の施設じゃないか?」憶測はできても、結局誰が何のために作ったのかは分からない。
ところがそこに地震が発生し、地下一階にある入り口が巨大な岩で閉ざされてしまう。さらに地下水の流入により、数日後には施設全体が水没することが判明する。
地下二階から岩を取り除く操作を行えば外へ出られるのだが、その操作を行った者は助からない。誰かが犠牲になる必要がある・・・
そんな中、裕哉が何者かに殺されてしまう。残された者たちは考える。犯人を突き止め、そいつを犠牲者にすればいいではないか・・・
こんな容疑者が限定されてしまう中でなぜ犯行に及んだのか。しかも、遠からず全員が死んでしまうかも知れないのに。これが本書に於ける最初にして最大の謎となる。
柊一たち6人は、もともとは親しい友人だったはずだが、このような極限状況に置かれると、次第にエゴが表に出てくるようになる。誰が犯人かを巡って疑心暗鬼にもなる。
「犯人を突き止めて犠牲にすればいい」とはいっても、犯人が素直に従うとも思えないのだが、だんだんと正常な判断ができなくなっていく。
そんな中にあって、比較的冷静なのが翔太郞だ。柊一たちより3最年長の彼は、親の遺産を受け継いだあとは定職に就くこともなく、もっぱら趣味に生きている。
こう書いてくると、本格ミステリにおける典型的な探偵キャラ設定のなのだが、彼はその期待(?)を裏切ることなく、鋭い洞察力を見せて事件の真相に迫っていくことになる。
実は柊一が大学時代の友人と会うに際して翔太郎を伴ってきたのも、ある事情によるものだった(その理由はストーリーの中で明かされる)。
本書の優れてユニークなところは、”真相の解明” と、”方舟からの脱出” という二段構えのクライマックスが用意されていること。
真犯人の指摘まではきわめてロジカルな推理が展開され、本格ミステリを期待するファンも充分満足できるだろう。
問題はそこから “脱出” へどうつなげるか。これは実際に読んでいただくしかない。各種ミステリランキングの上位を占め、激賞されたのも納得のエンディングだ。
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