評価:★★★
イギリスの田舎にある ”赤い館” と呼ばれる屋敷。そこの主であるマークを訪ねてきたのは、15年ぶりに帰郷してきた兄ロバート。しかし銃声が轟き、ロバートの死体が見つかる。
館に滞在中の友人に会いに来た青年ギリンガムは、事件を調べ始めるが・・・
『クマのプーさん』で有名な英国の劇作家ミルンが書いた唯一のミステリ。江戸川乱歩が選んだ ”探偵小説ベストテン” にも選ばれた古典的有名作品。
だけど私は今回が初読(笑)。
だけど私は今回が初読(笑)。
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イギリスの田舎にある ”赤い館” と呼ばれる屋敷。主は資産家のマーク・アプレット。そこを訪ねてきたのは、オーストラリアから15年ぶりに帰国してきたマークの兄・ロバート。
しかし屋敷内で銃声が轟き、ロバートの死体が見つかる。発見者は館の管理を任されていたマークの従兄弟マシュー・ケイリーと、たまたま館に滞在中の友人を訪ねてきた青年アントニー・ギリンガムだった。
前後の状況から、一緒にいたはずのマークに容疑が掛かるが、彼は事件直後から姿を消してしまっていた。
ギリンガムは友人のビル・ベヴァリーをワトソン役にして、事件を調べ始めるが・・・
ギリンガムは友人のビル・ベヴァリーをワトソン役にして、事件を調べ始めるが・・・
本書の初刊は1922年で、約100年前。この頃はヴァン・ダイン、クイーン、クリスティ、カー、クロフツなど世界的に有名な作家たちが、古典的名作と呼ばれる作品を次々に発表していた時期で、いわゆる ”探偵小説黄金期” と呼ばれる時代。
その中で本作は、江戸川乱歩が選んだ ”黄金時代の探偵小説ベストテン” にも選ばれた。そこには『僧正殺人事件』『Yの悲劇』『アクロイド殺害事件』『帽子収集狂事件』『樽』など、そうそうたる作品が入っているので如何に本作への評価が高かったが分かる。
ならばさぞかしスゴい作品なのだろう・・・という期待が膨らむのだが、実際に読んでみると些か印象は異なるものだった。
まず、事件現場にほとんど謎はない。犯人はロバートを撃って逃げたのだが、密室ではないので不思議はない。
次に、屋敷には5人も滞在客がいたのに、事件直後にそのうちの4人までが家に帰ってしまう。そしてその後、ほとんど物語に登場しない。つまり、序盤で容疑者がごそっと減ってしまうのだ。
もっとも、犯行時にはみなゴルフ場にいたのでアリバイがあると云えばあるのだが、それでもこの減らし方は ”ミステリの定石” から外れていると言えるだろう。
そうなると、(失踪したマークを含む)残った登場人物の中に犯人がいそうだ・・・というふうに思考が向く。すると、ある人物に目が向いていくのだが・・・あまり立ち入るとネタバレになるのでこのへんで。
上記の ”江戸川乱歩によるベストテン” にある、そうそうたる作品群と比べると、本作は地味で小粒な印象を受けるだろう。ミステリとしてのメインのネタも、当時ならば十分な意外性があったのだろうけど、それはこの時代・この場所だから成立するもの。ミステリ作品があふれかえっている現代日本から見ると、陳腐だと感じる人もいると思う。
断っておくが、これはあくまで ”現代の目で見たら” という尺度での評価だ。100年前のミステリ界なら、もっと違う評価があっただろうとも思う。
いいところも挙げておこう。作者は劇作家だけあって登場人物はちゃんとキャラが立っていて、会話も充分に面白い。
終盤には犯人による独白があるのだが、動機や犯行時の様子や情感の描写はなかなか読ませる。このあたりは流石だと思う。
田園地帯ののどかな風景の中で起こる事件、必要以上に血なまぐさい描写もなく、探偵役のギリンガムの穏やかな雰囲気もあり、全編に渡って品の良さを感じる。それはやはり『クマのプーさん』を書いた人だからこそだろう。
そのあたりを考えると本作は、これから本格的にミステリを読み始めたいという初心者にはオススメな作品になっているんじゃないかと思う。古典的名作から入ってきたオールド・ミステリ・ファンにも、読書歴の初期にこの作品に出会った人は多いのだろうし。
私はいささか遅かったけど(笑)。
巻末の解説は加納朋子さん。ここで彼女は「金田一耕助はギリンガムがモデル」という説を紹介している。
ちなみに wikipedia によると、横溝正史自身がエッセイ『金田一耕助誕生記』の中でそう語っているようだ。
旅する先々で短期アルバイトをしながら世界中を回っているギリンガムと、若い頃にアメリカを放浪していたという金田一。
名探偵と云えば、自らの頭の良さを鼻にかけ、エキセントリックな言動でワトソン役を振り回したり、博覧強記ぶりを見せびらかして周囲を煙に巻いたりするキャラが多い中、この二人はそんな振る舞いはしない。
人柄は穏やかで常識をわきまえ、友人や事件の関係者には敬意を表し、真相解明後は犯人に対してもある種の共感(憐憫の情?)を以て接する。
モジャモジャ頭にヨレヨレ袴のオジさん金田一、かたや爽やかな好青年ギリンガムと外見は全く異なるが、確かに共通点はありそうだ。
本書の刊行から24年後の1946年、金田一耕助の初登場作品『本陣殺人事件』が世に出る。横溝正史は『赤い館の秘密』を読んで何を思ったのだろう。そんなことを考えながら本書を読むのも一興かと。
この記事へのコメント
ふるたによしひさ
私もSSブログからシーサーブログへ移転しました。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
mojo
私も引っ越したばかりで
まだ記事編集やブログデザイン編集とかよくわからないのですが(笑)
焦らずに一歩ずつ進もうと思ってます。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。