評価:★★★
舞台は18世紀初頭のヨーロッパ。「永久機関の開発者には莫大な褒賞を与える」と布告されたノイエンブルク公国では、”永久機関” を騙る詐欺が横行していた。
その真偽を見極める機工審査官として任命されたテオ・アルベール。しかし彼の父もまた、かつて詐欺師の汚名を着せられて処刑されていた。任務の傍ら、父の死の真相を追うテオだが・・・
第13回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作。
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1702年のヨーロッパ。
ノイエンブルク公国のヨゼフ・ヴュスターブ司教が、ローマ教皇に取り入るために思いついたのが「永久機関の発見」だった。
しかし「永久機関の開発者には莫大な褒賞を与える」と布告されたことから、「永久機関の開発者」を騙る詐欺師が大量の湧き出してきた。
その真偽を見極めるため、公国領主のフリッツ・デアフリンガー伯爵は四人の審査官を任命した。その一人が、パリの王立アカデミーで機工を研究していたテオ・アルベールだ。
テオたちは、申請された ”永久機関” のカラクリを見破っていくのだが、実はテオ自身は ”永久機関” に対して複雑な思いを抱いている。彼の父イザークもまた機工の研究者だったが、詐欺師として処刑されていたのだ。
しかしそれは濡れ衣であり、父に汚名を着せてその研究成果を奪った者がいる。そう信じるテオは、機工審査官を続けながら父の死の真相を追い求める・・・
まず冒頭でテオたちの前に現れる ”永久機関” は、いろんな本や図鑑等で紹介されているものなので、見たことのある人も多いだろう(本書には随所に図版が載っているのでわかりやすい)。
”永久機関” は科学的に不可能と証明されているのだが、ちょっとした仕掛けで ”永久に動き続けるように見える” 機械に仕立て上げると、簡単に信じてしまう人々も当時はいただろう。
次々に現れる ”永久機関” のカラクリをテオたちが暴いていくのだが、後になるほど複雑で大がかりなものが出てきて、見破るのが難しくなっていく。
そういう連作的な構成で進みつつ、テオの父の死の真相に迫っていくストーリーかな、とも思ったのだが、個々のエピソードのミステリ要素はあまり大きくない。
本書から感じるのは、まずは登場するキャラのユニークさ。それで読ませていく部分が多いようにも思う。
特に、テオの兄で異端審問官をしているレオンのエキセントリックさは本書中で最も強烈だし、中盤から登場するテオの弟リュカもまた、違った意味で印象深い。
それに加えて、剣戟シーンも随所にあるし、”純白の追撃隊ブリガンティーヌ” と呼ばれる謎の白ずくめの騎士団の登場など、冒険小説的な盛り上がりもある。
というわけで本書は、「ミステリ要素はあまり濃くないが、それ以外の要素を組み合わせて充分に面白いエンタメ小説」になっている・・・と思っていたんだが、ラストに至ると物語の様相が見事に一変していく。これはけっこう驚く人が多いのではないかな。
改めて読み返してみると、冒頭から堂々と伏線が張られていたことがわかる。いやあ、流石はアガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作だけのことはありましたね。
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