密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック





評価:★★★★

 東京都の山間部に位置する ”八つ箱村”。そこは白い直方体の家屋が建ち並ぶ異形の集落。そこで暮らすミステリー作家の一族、住民、旅行客が次々に殺されていく。そのすべては密室殺人、あるいは衆人環視の中での不可能殺人だった・・・
 蜜村漆璃と葛白香澄の高校生コンビが活躍するシリーズ、第三作。

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 完璧な密室殺人は完璧なアリバイと等価である。密室トリックが解明されない限り、何人(なにびと)も犯人として逮捕され
ることはない。

 そんな判例が出たことによって、殺人事件の1/3を密室殺人が占めるようになった、パラレルワールドの日本を舞台にしたシリーズ。


 語り手となる葛白香澄(くずしろ・かすみ)は高校三年生。幼馴染みの朝比奈夜月(あさひな・よづき)に引っ張り出されて奥多摩へUMA(未確認生物)を探しに行く(おいおい)が、道に迷ってしまう。

 そして二人が辿り着いたのが ”八つ箱(やつはこ)村”。それは巨大な鍾乳洞の奥に築かれた集落だ。その広さ、東京ドーム約20個分。住民はおよそ500人。そしてすべての家が白い外壁をもつ直方体の箱でできていた。

 八つ箱村には、”物柿(ものかき)家の一族” が屋敷を構えていた。代々密室ミステリ作家を輩出し、現在は九人の兄弟姉妹のうち七人までが ”天才密室ミステリ作家” として知られている。

 その村の中で、次々と事件が起こっていく。


 祭の最中に、物柿家の長女が銃で頭を撃ち抜かれ、仮面の人物によって死体を持ち去られてしまう。

 村の若者が、突然口から炎を吹き出し、たちまち全身に火が回り、燃え尽きてしまう。
 そしてここから、国内最多の連続記録を更新する、八連続密室殺人が始まる・・・

 中盤からはメイン探偵役の蜜村漆璃(みつむら・しつり)が登場し、ラストの謎解きまで締めくくる。


 本書を含むこのシリーズは、舞台設定からキャラ設定、小道具の配置に至るまで徹頭徹尾、人工的な雰囲気が満ち満ちている。
 例えば、物語が進むにつれて、この八つ箱村自体が物柿家の財力によって維持されている、いわば人工の集落であることが明らかになっていく。

 さらに登場キャラも、属性をそのまま名前にしている。それもこのシリーズの特徴だ。最初に始めたのは今村昌弘氏だったと思うんだが、この作者はそれを徹底している。

 村の駐在さんの姓が駐財田(ちゅうざいだ)、旅館の女将が女将原(おかみばら)、焼死した村の若者が村若(むらわか)なんていうあたり、もうほとんどギャグである。

 本書は密室をテーマにしたギャグ・マンガのつもりで読んだ方がいい。というか、作者もそう読まれることを期待してこんな設定を前面に押し立てているのだろう。


 それはストーリーにも現れていて、数多くの密室をラストにまとめて謎解きするのではなく、目の前に現れる密室をその都度、解き明かしていく。すると、次なる密室が立ちはだかってくる、というもので、こういうところもバトル・マンガのノリを思わせる。


 さて、肝心の密室なのだけど、明かされてみると(このシリーズは毎回そうなのだが)バカミス・トリック大集合みたいな感じである(褒めてます)。

 ただ、前作ではあまりのバカバカしさに思わず笑ってしまうトリックもあったんだけど、今作では同じバカバカしさでも「うーん」と首を捻ってしまうものが多い印象。

 例えば○が使われてるトリックが出てくるのだが、そのあまりにも万能な使い方に「ちょっと待てよ」「そう簡単なものではないだろう」って云いたくなってしまう。

 気にしない(気にならない)人も多いかも知れないけど、○の性質や準備の手間とか考えたら、私にはあまりにも無理が多そうに感じる。
 まあ、この手の作品で ”リアリティ” とか ”実現可能性” とかを言い出すのが野暮なことだとは百も承知してるのだが。

 あと、これはネタバレになるので詳しく書けないのだが、発想が斜め上過ぎて「いくらなんでもそれはないだろう」的なトリックもある。「思考の盲点を突くスゴいもの」と思わなくもないが、これについては賛否が分かれそう。

 1960年代後半~70年代にかけてベストセラーになった『頭の体操』(多湖輝・著)という思考パズルのシリーズがあったんだが、「それを彷彿とさせるトリックだ」って書いても、これが分かる人はもうかなりのトシだろなぁ(笑)。

 でも、トータルで見ると二桁に達するくらいのトリックを創案しているのはたいしたもの。バカミス的なものでも、”数は力” ということを感じさせる。

 これらを単発の短編で使ったら非難囂々かも知れないけど、こういう舞台設定に載せてマシンガンのように立て続けに惜しみなくぶちまける大盤振る舞い。もう読者に考える暇を与えずに物量で押し切ってしまおうという姿勢も、ここまでやれば立派なもの。
 その中には、この特殊な舞台でしか実現できないトリックもしっかり仕込んであって、なかなか楽しい読み物になっていると思う。

 さて、前作の時も書いたと思うけど、次はどうなるのだろう。デビュー作の「六つのトリック」からはじまって前作の「七つのトリック」、そして今作の「八つのトリック」。特殊な舞台設定や、登場するトリックの数も、その荒唐無稽さもどんどんエスカレートしてきている。


 本書をマンガ的と評したけど、このあたりも長期連載の少年マンガにありがちな流れだし、それによって潰れて消えていった漫画家さんも少なくない。他人事ながら心配になってしまう。
 次はさらに過激な「九つ」へ進むのか、それとも路線転換していくのか分からないけれど、燃え尽きないで(笑)頑張ってほしいと思ってる。


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