復讐は芸術的に




評価:★★☆

 法律相談ができる探偵事務所を経営する美貌の人エリス。しかしその裏では「合法的な復讐」を請け負っていた。
 デビュー作『復讐は合法的に』の続編。

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「Case 1 配信者」

 祖父の代から続く定食屋「まる山」を切り盛りする陽平(ようへい)。しかし、グルメ系 YouTuber『モグ太郎』のアポなし突撃取材を断ったことを逆恨みされ、悪質な嫌がらせを受けていた・・・
 ”法律の範囲内” だが ”道徳の範囲外” なエリスの復讐。そのための用意周到さと、実行に当たっての徹頭徹尾ぶりに驚かされる一編。これで本書のツカミはばっちりだ。


「Case 2 労災」

 浪川篤史(なみかわ・あつし)は両親を早く喪い、祖母の志津(しづ)に育てられた。真面目な青年に成長した彼は、高校卒業後に地元の中小企業・望月(もちづき)精機に就職した。
 しかし働き始めて二年目の夏、職場で倒れて亡くなってしまう。死因は脳溢血。エリスの元を訪れた志津は訴える。孫の死について、会社は何か隠している、と・・・
 ”ブラック企業”・”ブラック職場” という言葉はすっかり市民権を得てしまったが、篤史の死も意外と根が深い。その込み入った事態に対しての、エリスの裁きぶりがいい。


「Case 3 親友」

 エリスの秘書・メープルは小学四年生。本名は佐藤楓(さとう・かえで)。彼女のクラスメイト・上條隼太(かみじょう・はやた)が今回の依頼人だ。
 塾帰りに公園で捨てられた子犬を見つけた隼太は、密かに世話を始めた。しかしある日、ホームレス風の男が子犬を虐待し、さらに連れ去るところに出くわす。隼太はメープルを通じてエリスを知り、調査を依頼してきたが・・・
 単純な動物虐待かと思わせて、意外と複雑な事情が潜んでいる。悪党からしたら、非合法な金儲けのタネはどこにでも転がっているんだなぁとも思ったが、そういうタネをみつけられるからこそ悪党になれるのだろう。


「Case 4 冤罪」

 吉田優佑(よしだ・ゆうすけ)は二十歳の学生。ガールズバー『ホワイトレディ』で出会った小野寺梢(おのでら・こずえ)に夢中になったが、金遣いの荒い梢に貢ぐ金が底をついたら、ぱったり音信不通に。貸した50万円も未返済のまま。
 優佑はエリスに事態の解決を依頼したが、その二週間後に梢がマンションの自室で刺殺され、優佑自身が容疑者となってしまう・・・


 ”合法的な復讐” がテーマの連作集だが、文字通りの復讐譚となっているのは前作の第一話と本作の第一話くらい。それ以外は復讐の要素は薄くなり、探偵としてのエリスが活躍するミステリのほうに重きが置かれてるように思う。まあそれはそれで良くできているので面白いけど(笑)。
 「Case 4」では、エリスとライバルになりそうなキャラが登場する。さながら、ホームズに対するモリアーティのような。
 このキャラが単発で終わるのか、それともセミレギュラー的に時々出没するのかは分からないけど、私としてはもうちょっとこのキャラが絡む話を読んでみたい。


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