七つの仮面





 金田一耕助の活躍する七つの事件を収録した短編集。

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「七つの仮面」

 女学校に通う美沙(みさ)は、上級生の山内(やまのうち)りん子と同性愛の関係を結ぶ。しかし次第にりん子のことが鬱陶しくなった美沙は、卒業後は彼女と連絡を絶ち、銀座の高級喫茶ベラミのウエイトレスとして働き出す。
 やがて美沙は江口万蔵(えぐち・まんぞう)という彫刻家の愛人となったが、その一方で中林良吉(なかばやし・りょうきち)と伊東慎策(いとう・しんさく)という二人の男を手玉にとっていた。しかしその伊東が、美沙の目前でアパートの五階からの転落死を遂げてしまう・・・
 語り手でもある美沙の ”天性の娼婦” 的なキャラが印象に残る。タイトルの「七つの仮面」とは、作中で美沙が見せる様々な ”顔” のこと。


「猫館(ねこやかた)」

 上野の高台にある屋敷は、多くの猫を飼っていたことから ”猫館” と呼ばれていた。そこの主であるドクトル・ハマコという女占い師の絞殺死体が発見される。しかも上半身は裸だった。そして現場から見つかったのは、女性の裸体を撮影した写真の燃え残り。
 猫館はかつて写真館で、古谷礒吉(ふるや・いそきち)という男が経営していた。彼は猥褻写真の販売やいかがわしいパーティを主催していたが、9年前に死亡していた・・・
 ハマコの周囲に疑わしい人物がたくさん配置されており、決定的な証拠もない。金田一耕助が見抜いた真相にも推測が混じる。それは意外だが、納得できるものになってる。


「雌蛭(めひる)」

 ある日の夜、金田一耕助は若い女性から電話での依頼を受ける。渋谷の聚楽荘(じゅらくそう)アパートの四階八号室にハンドバッグを忘れてきたからとってきてほしい、というものだった。
 依頼の通りに部屋にやってきた耕助が発見したのは、抱き合った男女の死体。しかもその顔は硫酸によって焼かれていた。そしてそこに男が訪ねてくる・・・
 金田一耕助が単独での冒険行に出るシーンは貴重かも知れない。いわゆる ”顔のない死体” だが、電話の声の正体を絡めることでひねりが加わっている。上手い。


「日時計の中の女」

 人気作家・田代裕三(たしろ・ゆうぞう)と妻・啓子(けいこ)は中古住宅を購入した。しかし、増築のために庭にあった日時計を動かしたところ、その下から女の死体が見つかる。遺体はかつてその家を所有していた画家の愛人で、彼は既に交通事故死していた。
 しかし金田一耕助の元を訪れた啓子は訴える。犯人は別にいるのではないか? そして自分も命を狙われているのではないか・・・?
 このあと新たな殺人が起こるのだが、犯人が凶行へ至った事情はちょっと同情できるかな。巡り合わせが悪かったとも云えそう。


「猟奇の始末書」

 洋画家・三井参吾(みつい・さんご)の別荘へやってきた金田一耕助。そこからは白浜海岸の海水浴場がよく見える。望遠鏡で眺めていた耕助は、ボートの上にある女性の死体を発見する。遺体はナイトクラブで働いている堀口(ほりぐち)タマキで、死因は胸に刺さった矢だった。そしてその矢は、三井が所有するものだった・・・
 小道具の矢の使い方が上手い。あと細かいことだけど、作中には「アーチェリー」とあるけど「日本式と違って水平に構える」ともあるので、ボウガンじゃないかなぁ。


「蝙蝠男」

 入試が迫っていた受験生・由紀子(ゆきこ)は、換気のために窓を開けたところ、向かいにあるアパートの二階で、蝙蝠のようにインバネス(コートの一種)を広げた男が女性にナイフを刺すところを目撃する。
 そしてストリッパー・リリー梅本(うめもと)がトランク詰めの刺殺死体となって見つかり、警察がリリーのアパートへやってくる。そこは由紀子が惨劇を目撃した部屋だった。そして彼女は、自分が見た光景について証言するのだが・・・
 由紀子の目撃したものが真相への手がかりとなるのだが、耕助が推理する部分はもうちょっと説明がほしい感じ。由紀子さんはショッキングな光景を目撃したのに、事件後に見事、大学合格を勝ち取ったのは立派(笑)。


「薔薇の別荘」

 銀座で大きなキャバレー経営するなど辣腕の実業家・吉村鶴子(よしむら・つるこ)はリウマチで身体が不自由になると、身寄りのない堀口三枝子(ほりぐち・みえこ)という女性を引き取り、身の回りの世話をさせていた。
 しかし鶴子が親類を集めた会合が開かれた夜、彼女の絞殺死体が発見される・・・
 鶴子の遺言状の意外な内容、彼女によって呼び寄せられた謎の男・児玉健(こだま・けん)の存在など、このあたりは "いかにも横溝正史" 的なストーリーが展開される。文庫で60ページほどだけど、長編に書き伸ばしても面白かったんじゃないかと思う。

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