レーテーの大河



レーテーの大河 (講談社文庫 さ 121-3)

レーテーの大河 (講談社文庫 さ 121-3)



  • 作者: 斉藤 詠一

  • 出版社/メーカー: 講談社

  • 発売日: 2024/07/12

  • メディア: 文庫








評価:★★☆





 太平洋戦争終結直前の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻する。入植していた日本人開拓団の少年・耕平は、幼馴染みの早紀子・志郎とともに辛うじて日本への帰国を果たす。

 その18年後、東京オリンピック開催を翌年に控えた昭和38年。耕平のもとへ鉄道公安官がやってくる。列車から転落死した男の捜査だった。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。そして、早紀子と志郎がこの事件に関わっているらしい・・・



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 太平洋戦争末期の昭和20年8月8日。ソビエト連邦は対日参戦を表明し、満州国に侵攻してきた。入植していた日本人開拓団の少年・天城耕平(あまぎ・こうへい)は、幼馴染みの藤代早紀子(ふじしろ・さきこ)・小野寺志郎(おのでら・しろう)とともに辛うじて満州を脱出、日本への帰国を果たす。

 彼らを救ったのは、最上雄介(もがみ・ゆうすけ)と石原信彦(いしはら・のぶひこ)という二人の陸軍中尉だった。



 親を喪った三人は孤児院で育った。そして終戦から18年後の昭和38年、28歳となった耕平は工場で働き、早紀子は銀座のキャバレーのホステス、志郎はヤクザがらみの会社で羽振りのいい生活をしていた。

 しかし早紀子と志郎がある日突然、姿を消してしまう。戸惑う耕平のもとへやってきたのは鉄道公安官。目的は列車から転落死した男の捜査だ。男は日本銀行で鉄道による現金輸送を担当していた。



 ちなみに鉄道公安官とは、司法警察権を持つ国鉄(日本国有鉄道:JRの前身である鉄道会社)の職員だ。公安官制度は1987年(昭和62年)、国鉄の分割民営化に伴い廃止され、鉄道警察隊へ移行した。



 早紀子と志郎は現金輸送列車を襲うことを企んでいるのではないか? 疑う耕平のもとに「レーテー」と名乗る正体不明の人物からの手紙が届く・・・



 一方、元陸軍中尉だった最上は陸上自衛隊の三佐に、石原は防衛庁の官僚となっていた。二人は米軍の貨物を秘密裏に鉄道輸送する任務についたが・・・



 ストーリーは耕平のパートと最上・石原のパートが交互に語られていく。





 米軍が輸送しようとしている荷物の中身は、作中でいちおう明かされているのだが、たいていの読者は「いやいやそんなものじゃないでしょ、実は○○○なんでしょ?」って思うだろう。そしてたぶんそれは当たる(おいおい)。



 でもまあ作者にとって、そのあたりまでは想定内なのだと思う。その○○○を取り巻く者たちの思惑や野心を描いていくことが本作のキモなのだろう。

 そしてそれに早紀子と志郎がどう関わっているのか。ストーリーが進むにつれて耕平はそれを徐々に知っていくことになる。



 舞台となるのは、東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。東京は建設ラッシュに沸き、復興が順調に進んでいるようにも見えるが、その裏では "ある陰謀" が進んでいる。

 その根底にはかつての戦争が ”遺したもの” が潜んでいる。世界大戦は終わっても時代は冷戦を迎え、平和の裏には戦争の陰が潜む。18年の時を超え、孤児三人組や最上・石原はそれと対峙することになる。



 冒険アクション的なストーリーなのだが、「終章」に至るとミステリ的な "絵解き" も行われる。

 しかし「エピローグ」で語られる本書の終着点は、哀しい。その行動を選んだ人物の心情もよく分かるのだけど。





 作者は2018年に『到達不能極』でデビューし、第二作『クメールの瞳』を経て、本作が三作めとなる。

 『到達不能極』は思いっきり大風呂敷を広げた(広げすぎた?)壮大なホラ話だったが、二作目では伝奇的要素は残しつつも地に足がついた作風へと変化した。



 そして本作では、伝奇的要素もなくなり、ある意味オーソドックスな冒険小説になっている。これは "成長" なのかも知れないけど、私としてはやっぱり第一作の "脳天気な荒唐無稽さ"(笑) がとても好きなので、ちょっと残念な気も。

 たぶん、本作の路線が今後の主流になるのだろうけど、何年かに一作でいいから、また "壮大なホラ話" を読ませてほしいなぁ。期待してます。





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