評価:★★★
時は戦国、南伊勢の宿儺村に暮らす少年・真吉は、追い剥ぎに母を殺された少女・小夜と出会い、村の一員として迎え入れた。
しかし、天下布武を目指す織田信長が北伊勢へと軍勢を進めてきた。真吉の無事を願う小夜の祈りが、「お南無様」と呼ばれる超常の存在を甦らせる。
「戦の世を終わらせる」と豪語する「お南無様」は小夜を引き連れて織田信長の動向を探り始める。その一方で、真吉は小夜を取り戻すたために壇ノ浦に沈んだ神剣の探索に赴くが・・・
第9回角川春樹小説賞最終候補作となった戦国ファンタジー。
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時は戦国、永禄十年(1567年)。有名な桶狭間の戦いから7年後。
主人公の少年・真吉(しんきち)は数え年で14歳。南伊勢の宿儺(すくな)村の長の息子として生まれた。
村にある古い祠には、「お南無様」と呼ばれる "神" が祀られていた。
ある日、彼は追い剥ぎに母を殺されて記憶を失った少女・サヨと出会う。身寄りのない彼女を ”よそ者” として受け入れようとしない村人たちに対し、真吉はサヨを許嫁として迎え入れると宣言する。
祖母の取りなしもあり、サヨは "小夜" という字を与えられ、真吉の家で暮らすことになる。
そして一年後。「天下布武」を唱える織田信長は、北伊勢へと軍勢を進めてきた。宿儺村もまた戦渦に巻き込まれようとしていた。
真吉の無事を願う小夜の祈りは、村に眠る「お南無様」と呼ばれる超常の存在を甦らせてしまう。
身の丈六尺(1.8m)を超え、隆々とした筋肉をまとい、蓬髪に加え全身を黒い剛毛が覆う異形の怪物だ。しかも超常の力を振るう、まさに "神" の如き存在。
「戦の世を終わらせる」と豪語する「お南無様」は、小夜を引き連れて織田信長の動向を探り始める。最初はいやいやだった小夜だが、次第に記憶を甦らせ、自らの "定め" を見いだしていく。
一方、真吉は小夜を取り戻すために、壇ノ浦に沈んだ三種の神器の一つ、神剣(天叢雲剣:あめのむらくものつるぎ)の探索に赴くのだが・・・
こう書いてくると、真吉と「お南無様」の戦いが始まるように思われるが、どうしてどうして、仮にも "神さま" なので一介の子どもがそうそう対抗できるわけもない。
「お南無様」との戦いを主に担当するのは、京の公家・裏部惟敦(うらべ・これあつ)とその配下の者たち。裏部は神祇官に仕え、帝から託された古来よりの秘命を司る。それは「お南無様」が現れたらこれを倒し、封じること。
ちなみに「お南無様」というのは宿儺村の者たちがそう呼んでいるだけで、実は ”真の名” があり、その正体はラスト近くで明らかになる。
ストーリーが進むにつれて「お南無様」がいかなる方法で「戦の世を終わらせ」ようとしているのかがわかってくるのだが、これは結構早い段階で予想がつくだろう。
私は和風のヒロイック・ファンタジーな展開を期待していたのだけど、受ける印象は伝奇アクション時代劇、というところ。
クライマックスでの戦いも、もうちょっと派手になるかと思ったのだけど、意外と堅実なところで収めた感じ。まあ「お南無様」がゴジラ並に完全無敵だったら話に収拾がつかなくなるので、これくらいの案配でいいのかも知れない。
真吉と小夜の決着のつけ方も、最初は「それでいいのかな?」とも思ったが、「終章」まで読んでみると「これはこれで上手い結末なのかも」と考えが変わった。
真吉に闘技「とおの技(わざ)」を教える青年・壮介(そうすけ)、真吉の叔父の宗玄(そうげん)和尚、神剣を探す真吉をサポートするお冴(さえ)など、サブキャラにも印象的な登場人物が多い。
その中でも真吉の母・多実(たみ)が小夜を自分の娘のように可愛がる姿には心が温まるし、真吉の理解者である祖母・"お婆(ばば)" は、序盤でとてもいい味を出している。
褒めてるような、けなしているような文章になってしまったが、このタイプの小説は珍しいとも思うので、もっと読んでみたいものだ。ネットで探したけど、作者の著書は今のところこれ一冊だけみたい。
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