評価:★★★★
人の世に豊穣をもたらす竜という存在。だがひとたび竜が病を得た時、破滅をももたらすことになる。そんな竜に治療を施すのが〈竜の医師団〉だ。
"竜の医師" を志す少年少女たちの成長を描く異世界ファンタジィ。
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舞台となるのは極北の国カランバス。そこにある "竜の巣" には、〈竜王〉ディドウスが住まう。
推定年齢は4120歳。生まれたのは記録に残る人間の歴史をさらに2000年以上遡った太古のことで、現時点で最高齢の竜でもある。
体長は推定1460馬身(1馬身を2.5mとすると約3600m)、翼を広げると3333馬身(同8300m)。体重に至っては推定すら不可能。"彼が動く" ことは、まさに "山が動く" ようなもの。
人の世に豊穣をもたらしてきた竜という存在だが、ひとたび竜が病を得れば、それは巨大な災厄ともなる。そこで、竜の病に治療を施す役を果たすのが〈竜の医師団〉だ。
ディドウスも齢を重ね、ここのところめっきり弱ってきた。身体のあちこちにガタが来ているようで、病に悩まされるようになってきた。
本作は、そんな竜の "治療" を描いた連作短編となっている。
「カルテ1 咽喉(のど)の痛みと、竜の爆炎」
咳による不眠、呼吸困難、偏頭痛、
「カルテ2 全身の痒みと、竜の爪」
難治性の全身掻痒感
「カルテ3 もの忘れ、ふらつき、そして竜巻」
認知機能の低下
「カルテ4 死の舞踏と、竜の愛」
不随意運動ともの忘れ
いずれも、人間にも同様の症状が出るものばかりだが、竜のことであるから人間のそれが当てはまらない可能性もある。
竜との意思疎通もできないわけではないが、所詮異種族であるから完璧は望むべくもない。そして何より、寿命が人間とは桁違いに長い。"竜の一生" の間に人間のほうは100世代くらい超えてしまうので、"過去の病歴・治療歴" が不明だし、記録があったとしてもあてにならない。
それでも、竜の治療を続けるのが〈竜の医師団〉だ。国家の壁を越えて集った医師たちが日夜研究を重ね、治療法の進歩を求め続ける。
物語はその〈竜の騎士団〉のもとで、新たな "竜の医師" を目指す若者たちの視点から描かれる。
主人公兼語り手のリョウは16歳。"ヤポネ人" という出自故に迫害され、初等教育さえ受けられなかった。従って医師団への入団試験では筆記が0点。しかし竜と対峙する覚悟と度胸を示し、みごと入団を勝ち取る。しかし勉強面では小学校舎からやり直しとなる(笑)。
そしてなにより、彼にはヤポネ人特有の "特殊能力" が備わっていた。それは竜の医師としては、とても強力な ”武器” となるものだ。
リョウの相棒となるレオニートは、名門オバロフ家の御曹司。驚異的な記憶力と豊富な知識で筆記は満点。しかし「血を見るのが苦手」という、医師としては致命的な欠点を抱えている。
ストーリーが進むにつれ、竜とこの世の関わり、ヤポネ人の過去、レオニートの実家であるオバロフ家の役割などが徐々に明かされていく。
この二人に "竜の巣" 生まれの少女でメカに堪能なリリが加わって、主役三人組となる。
サブキャラも多彩でユニークだ。医師団の各セクションのリーダーも個性的なのだが、なかでもリョウとレオニートの指導教官となる竜血管科内科長カイナ・ニーナは、突出している。
突拍子もないことを言い出し、それを自らの行動で実現してしまうと云う途轍もない突破力を持った人。本書はリョウやレオニートたちが彼女に振り回されていく様子を延々と綴ったもの、といっても過言ではないだろう(笑)。
基本的にはコメディ調ですすんでいくのだが、終盤になるとシリアスな度合いが増していく。
「カルテ5 咽喉の痛みと、竜の暴走 ~診断編~」
「カルテ6 咽喉の痛みと、竜の暴走 ~治療編~」
においては、高齢で次第に弱っていくディドウスに、医師としてどう対処していくか、という難問が持ち上がる。
人間においてもこれは避けて通れず、なおかつ正解のない問題なのだが、このテーマ設定は作者の一人(「庵野ゆき」は女性2人の合作ペンネーム)が医師であると云うこともあるのだろう。
本書は「1」「2」と刊行され、ストーリー的には一区切り着いているのでこれで完結とも思われるが、成長したリョウたちや〈竜の医師団〉のその後も知りたいと思わせる。いつの日か続編が登場することを期待したい。
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