評価:★★★
6つの短編を収録しているが、読む順番によって異なる印象・読後感を得られるというのが特徴の作品集。
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読む順番は 6×5×4×3×2×1=720通り。どの順番で読むかは読者に任されている。そのために、各短編ごとに上下が逆転して印刷されているという念の入りよう。
というわけで、以下に各短編の紹介を書くが、これは「私の読んだ順」です。実際に本をとって見た方なら、この順になった理由がなんとなく見当がつくかも知れません。
「消えない硝子の星」
アイルランドで看護師として働く日本人カズマが語り手。彼の担当する患者・ホリーが、短い余命を自宅で過ごすために退院した。カズマは週5日、彼女の元へ訪問看護にやってくることに。
夫は既に亡く、後に残される10歳の娘オリアナはホリーの姉ステラに引き取られることになっている。だがステラはそれを快く思っていないようだ・・・
「笑わない少女の死」
英語教師でありながら、英会話にさっぱり自信のない "私"。定年間際で妻を癌で喪い、子もいなかったことから、単身でアイルランドへ傷心旅行にやってきた。
ダブリンの街中で "私" が出会ったのは、小学校高学年ほどの物乞いの少女だった・・・
「名のない毒液と花」
語り手は中学校の理科教師・吉岡利香(よしおか・りか)。夫の精一(せいいち)は江添正見(えぞえ・まさみ)という男と組んで "迷子ペットの捜索屋" をしている。
彼らの暮らす海辺の街、その沖に浮かぶ無人島へペット探しにやってきた三人は、そこで利香の教え子の中学生・飯沼知真(いいぬま・かずま)に出くわす。
知真は一年半前に母親を交通事故で失って以来、成績も下がり父親とも没交渉になっていた。彼は何かを企んでいるようなのだが・・・
「落ちない魔球と鳥」
高校の野球部でエースだった兄。弟の晋也(しんや)も野球部に入ったが、現在は補欠。しかし早朝の投球練習に励んでいた。
そこに現れたヨウム(大型のインコ)が「死んでくれない?」としゃべり出した。ヨウムを追いかけた晋也は飼い主を突き止める。それは千奈美という女子高生だったのだが・・・
「飛べない雄蜂の嘘」
大学の助手をしている "わたし" は、田坂という男と恋仲になる。しかしバブル崩壊で財産を失った田坂は豹変し、DVを繰り返すようになった。
包丁を向けてきた田坂から "わたし" を救ってくれた男は錦茂(にしきも)と名乗った。彼と奇妙な共同生活を始めた "わたし" だったが・・・
「眠らない刑事と犬」
刑事の "わたし" は、ペット捜索屋の江添に接触し、"ある犬" を見つけてくれるように依頼する。その犬は三日前に起こった夫婦刺殺事件の現場から姿を消していた。
容疑者に上がっていたのは現場の隣家に住む引きこもりの青年。彼は殺された夫婦と犬を巡ってトラブルを起こしていたらしいのだが・・・
各短編はすべて同一世界の物語で、いくつかの作品には共通して登場する人物もいる。時間的な隔たりも十数年にわたる。だから読む順番によって時系列が前後することもある。
また、ある作品では不明なことが、他の作品では明かされていたり。つまり読む順が異なれば同じ事象が「謎」になったり「自明のこと」になったりする。
もちろんそうなれば、読後の印象も異なったものになっていく。
なかなか面白い試みだと思うけど、全編読み終わってみると「この話の後にこれがくるのはちょっとアレだなぁ」と思う組み合わせもある。自分なりに「一番楽しく読める組み合わせ」を考えるのも一興かと思う。
私自身の感想としては、「消えない硝子の星」は最期に読むとよかったんじゃないかな、と思った。ミステリとしてもストーリーとしても、とても綺麗に納まっているのでいちばん快い読後感が得られそうだし。
私はたまたま、これを最初に読んでしまいましたが(笑)。
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