評価:★★★★☆
小学五年生の賀茂凰介は、母・咲枝を病気で喪う。しかしその数日後、同級生・水城亜紀の母・恵が病院の屋上から転落死を遂げる。
そしてそれをきっかけに、凰介の周囲で不幸な出来事が起こり始める・・・
第7回(2007年)本格ミステリ大賞受賞作。
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賀茂洋一郎(がも・よういちろう)と水城徹(みずしろ・とおる)は医学部の同級生だった。洋一郎の妻・咲枝(さきえ)と徹の妻・恵(めぐみ)は二人の大学の後輩で、彼女たちもまた同級生同士だった。
卒業後、徹は大学に残って研究員となり、洋一郎は大学病院に勤務となった。
賀茂夫妻の子・凰介(おうすけ)と水城夫妻の子・亜紀(あき)もまた同じ小学校の同級生という、かなり珍しい組み合わせだ。
凰介の母・咲枝が癌との闘病の末に亡くなり、その葬儀の日から、凰介の周囲では不幸な出来事が起こり始める。
弔問に訪れた水城一家。亜紀の母・恵に語りかけられた凰介はその瞬間、脳裏に不思議な映像が浮かぶ。"裸体の二人の人間が蠢く" というもの。その意味が分からず戸惑う凰介。
その一週間後、恵の死体が発見される。夫の徹が勤務する大学病院の屋上から転落したのだ。
その徹は、二年前から幻覚に悩まされ、薬に依存するようになっていた。その根底には、娘・亜紀の出生が絡んでいた。
その亜紀は、自宅マンションの前で交通事故に遭ってしまう。
そして凰介は、家にあったPCの中に、父が作成した "ある文書" を発見してしまう・・・
不穏な事実が次々と羅列されていき、二つの家族を巡る情勢は "不安定化" の一途を辿る。それはやがて "破滅の予感" となり、読者は彼らの辿る運命に危惧を覚えながら、ページを繰り続けることになる。
読み進むうちに、読者は "ある推測" を抱くようになるだろう。亜紀が抱え込んでいる ”秘密” についても、ある程度の "見当" をつけていくと思う。
ところが終盤に入ると、意外な事実が次々と明かされていき、事態は二転三転していく。読者が抱いていたであろう "予測" も次々と覆されていく。
ミステリを読み慣れた人でも、というかそういう人こそ、終盤の展開には呆気にとられるのではないか。それくらい、事件の様相は一変していく。すべてを見通すことは至難の業だろう。
ちなみに、この文章を書くために本書をところどころ再読したのだが、作者は実に巧妙に伏線を仕込んでおり、それは冒頭部から既に始まっている。
そしてラスト30ページに入って情勢がさらに四転五転していくに至り、私は「参りました」と白旗を掲げてしまった。
ところが、それだけでは収まらないのがすごいところ。いやあ「ここまでやるか」という感じ。さすが「本格ミステリ大賞」受賞はダテじゃない。
そして「エピローグ」で感じるのは、凰介の "事件" を通じての精神的な成長だ。「子ども」を抜け出し、「大人」の入り口に立つことになった彼の言動は感動的ですらある。読者は大きな安堵と満足感を覚えて、本を閉じることになるだろう。
そして、幼いながらも本書のヒロインを務めきった亜紀も、気丈で健気なお嬢さんだ。いつか、短編でもいいから数年後の凰介と亜紀の物語を読んでみたいと思わせてくれる、素晴らしいラストシーンだ。
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