不思議な宿縁に導かれて世に現れた八人の犬士たちが、悪や妖異と戦い続ける「南総里見八犬伝」が描き出す壮大な『虚の世界』
作者の滝沢馬琴が28年の歳月をかけて物語を紡ぎだしていく、執念と苦闘に満ちた『実の世界』。
双方をクロスオーバーさせながら「八犬伝」の世界を再構成してみせた、山田風太郞の異色作。
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本書を原作とした映画が公開されたことを機に、読んでみた。
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なぜ彼は、失明しても諦めなかったのか?
「八犬伝」に込めた馬琴の想いにあなたは涙する。
江戸時代の人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。
里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。
北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。
北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。
完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。
失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。
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「八犬伝」の物語の内容は、改めてここには記さないが、日本ファンタジーの原点とも言われる作品だ。専任の挿絵画家と組んでの冊子発行で、長大なシリーズとなったことから「ライトノベル」の嚆矢とも云える。
単独の主人公ではなく、8人という集団ヒーローによる勧善懲悪の物語という形式が後世に与えた影響も大きいと思う。
特にサブカルにおいては、「戦隊シリーズ」や「聖闘士星矢」「セーラームーン」「プリキュア」に至るまで、現代でもその流れにある作品は枚挙に暇がない。
本作自体は文庫で上下巻あわせて約800ページという大部。うち、滝沢馬琴が登場する『実の世界』が締めるのはおよそ三割というところ。
作者である滝沢馬琴が、親友の葛飾北斎に「八犬伝」の構想を語りだすところから始まり、以後28年間に及ぶ執筆期間の生活風景を記していく。
ここで描かれる馬琴はなかなかエキセントリックというか狷介というか。とにかく自分で決めたことは愚直なまでに守り通そうとする。
例えば人気作家になった馬琴に大名の毛利家から使者が来る。奥方が会たいという。しかし馬琴は使者を追い返してしまう。
「初めての客は紹介状がなければ会わぬ!」と言い張って。
しかも、それを自分で言えばいいものを、息子に言わせるのだから。
実は馬琴は、息子を医師にしてどこかの大名家のお抱えにしてもらおうと思っていたのだが、そのことと今回の毛利家の件を頭の中で結びつけることができないのだ。
このように、作家としては天才なのかも知れないが、通常の日常生活を送る能力には疑問符がつく御仁である。
とにかく意固地で頑迷、ついでに吝嗇でもある。現代だったら早々に "老害" 扱いされているだろう。遠くから見ているぶんには面白いが、近くには来ないでほしい人ではある。
はっきり言って、偏屈な爺さんの話が延々と続く「実」の部分は、読んでいてもいまひとつノリが悪い。
そして、原作では(ページ数比で) 虚7:実3 の割合だったものが、映画では(私の体感で) 虚5:実5 という感じで「実」の比重が増している。
ネットでの映画評を見ると、実の部分の評価が高いみたいだけど、私はへそ曲がりなので「もっと虚の部分を見たかったなぁ。なんなら実の部分はナシでもよかったなぁ」なんて思ってしまった。
役所広司が名優なのは否定しないし、熱演しているのはわかる。黒木華もいい。だけど、モノが「八犬伝」なのだから、私はやっぱり偏屈爺さんの話より犬士のアクションが観たかった。
ちなみに原作のラストには、映画版のラストのような演出(『フ○ン○-○の○』みたいなアレ)はありません。
虚の部分はいいよ。八犬士はみなイケメンだし、戦闘シーンのCGもよくできてるし。願わくば、2時間×2本の前後編くらいで八犬士の話が観たかった。
私と八犬伝の出会いは小学校の頃。家に子ども向けのリライト版があって、それを読んだのが最初。
そして坂本九の語りで有名なNHKの人形劇「新八犬伝」(1973~75年)も夢中になって観ていた。
1978年には・・・いま『宇宙からのメッセージ』という言葉が頭に浮かんだのだが、気のせいだろう(おいおい)。

1983年には、いま『SHOGUN』で話題の真田広之(当時23歳)が主演した『里見八犬伝』が公開。ヒロインは人気絶頂だった美少女・薬師丸ひろ子(当時19歳)だった。家に Blu-ray があるのだけど、ラスト30分間にわたるアクション・シーンは今観ても素晴らしいと思う。
この『里見八犬伝』のリメイクでもいいなぁ。現代の技術ならすごいモノができそうだ。
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