宇宙戦艦ヤマト 黎明編 第2部 マリグナント・メモリー









 1974年に始まったTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」はシリーズ化され、1983年の「完結編」で幕を閉じるが、2009年に「復活編」として蘇ることになった。



 26年もの時を隔てた復活であり、作品内でも17年が経過している。登場人物も大幅に入れ替わり、ヤマトのメインクルーについては艦長の古代進、機関長の徳川太助以外はなじみのないメンバーになってしまった。



 それだけが原因ではないと思うが興行的には不振に終わり、予定されていた第二部以降は未だ制作されていない。





 この「黎明編」は、「完結編」と「復活編」の間の空白の時期を小説の形で埋めていこうという企画だ。



 「黎明編 第1部 アクエリアス・アルゴリズム」については3年ほど前にこのブログで記事に書いている。

 その記事を適宜引用しながら、先日刊行された「第2部 マリグナント・メモリー」について書いていこう。



 なお、未読の方のために内容紹介は最小限に留めようと思う。





 「第1部」の時間軸は「完結編」から12年後、「復活編」の5年前の2215年。

 「第2部」ではさらにその2年後の2217年から始まる。



 主人公・古代進とその妻・雪は35歳、2人の間に生まれた一人娘の美雪は13歳になっている。



  「完結編」で起こった ”銀河衝突” に伴って、ボラー連邦とガルマン・ガミラス帝国両宙域内で大量の難民が発生していた。

 「第1部」のラストにおいて、古代は非政府組織・銀河難民救助隊の代表となり、特殊救難艦〈オリオン〉を駆って活動している。



 ボラー連邦宙域にある惑星ブイヌイへ援助物資を輸送するためにやってきた古代たちは、ボラー系の住民とガルマン系の住民との間の対立を解決する。

 しかしその帰路、謎の大型戦闘艦に襲われたボラー連邦の船から救難信号を受ける。その戦闘艦はガルマン・ガミラスのものだった・・・



 一方、地球連邦科学局は太陽系から0.3光年のところにUGR(未確認ガンマ線発生源)を発見した。古代雪を艦長として波動実験艦ムサシが派遣され、その調査の結果、UGRは移動するブラックホールと判明、3年後には地球を直撃することがわかった。

 直ちに中心に対策が練られ、20億の地球人を脱出させる移民船の建造が決定される。

 そしてアクエリアスの水柱の名残である氷塊の中では、科学局長官・真田の指揮の下、宇宙戦艦ヤマトの再建が始まっていた・・・





 古代・雪をはじめとする ”かつてヤマトに乗っていた者たち” と、”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” を描いていく基本線は変わらない。



 古代の指揮の下、難民保護に活躍する者たち。そしてヤマト再建の現場で奮闘する者たち。”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” が、それぞれ ”与えられた場” で励む様子が語られていく。





 あまり書くとネタバレになるのだけど、本巻の終わり頃になると、「復活編」の冒頭部につながる気配が見えてくる。





 かつてSNS上で、「復活編」を個人小説としてリメイクした〈非公式ノベライズ〉なるものを発表していた人がいた。私も(全部ではないが)目を通し、「よくできてるなあ」と感心した覚えがある。

 巻末の後書きを読むと、著者の塙龍之氏は、どうやらその〈非公式ノベライズ〉を書いていた人らしい。





 私は「復活編」そのものには肯定的ではないのだが、この「黎明編」の行っている試みには素直に敬意を表したい。

 溢れるヤマト愛で、なんとか「復活編」を盛り上げようという情熱には頭が下がる。そしてなにより、「復活編」を観たときに感じた違和感やがっかり感が「黎明編」からはきれいに消えているのは驚きだ。



 進行の具合から考えて、「黎明編」はおそらく次の第3巻で終わり、映像版の「復活編」へ続くことになるのだろうが、ここまできたらいっそのこと「復活編」そのものもこの執筆体制でノベライズしたらいいんじゃないかな。

 もしそうなれば、最後まで付き合ってもいいと思わせる、それだけのものを持っているシリーズだ。





 多少は無理筋な展開があっても、それをノリと勢いで押し切ってしまうのが良くも悪くも「ヤマト」という作品。

 前巻もそうだったが、本書もそういう「ヤマトらしさ」を存分に発揮している作品だ。

 往年のヤマトファンにとっては、楽しい読書の時間を与えてくれる作品になっているだろう。


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