評価:★★★
太郎と散多の兄弟は古道具屋を営んでいる。弟の散多には、ものに触れるとそこに宿る記憶が見えるという特殊能力があった。
ある日、散多が触れたタイルから強烈なイメージを受ける。しかもそこには、今は亡き兄弟の両親の姿が。
一方、日本各地の廃ビルでは、"帽子を被った夏服の少女" の目撃情報が相次いでいた・・・
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タイトルの「スキマワラシ」とは、記憶の隙間に隠れている ”座敷わらし” みたいな存在、という意味だ。
纐纈太郎(こうけつ・たろう)と散多(さんた)の兄弟は、古道具屋を営んでいる。具体的な年齢は書かれてないが、兄の太郎は "青年" を脱し、そろそろ "おっさん" に入りかけているようだ。ちなみにどちらも独身。
散多は兄を手伝いながら、夜になると古道具屋の片隅でバーを開いている。兄とは8歳違い。間にもう一人くらいいてもおかしくない年齢差だ。
何年か前に散多が中学校の同窓会に出かけた時、友人から「中学に上がる前、おまえが同じ歳くらいの女の子と歩いているのを見た」と言われた。
その頃の散多には "彼女" はいなかったし、その友人は散多から「親類の女の子だ」と言われたという。しかしなぜか散多には、その女の子の記憶そのものがなかった。
もっとも、兄の太郎は何らかの情報を知っていそうではあるのだが・・・
そして散多には、ものに触るとそれに宿る記憶が映像として見える、という特殊能力があった。
ある日、散多が触れた古いタイルから強烈なイメージを受ける。その中には、今は亡き二人の両親の姿もあった。
兄弟は商談のために全国を飛び回りながら、タイルの出所を探し始める。
一方、日本のあちこちの廃ビルで、"帽子を被った夏服の少女" を見た、という情報が出回り始める。単純な都市伝説かとも思われたが、これが兄弟の探索行と交錯していく・・・
終盤を除き、ドラマチックな展開とか衝撃的なイベントとかはほとんど起こらない(全くないというわけではないが)。どちらかというと平穏な日常が坦々と進行していくのだけれど、退屈ということはことはなく、細かいエピソードを積み重ねて読者の興味を惹き続けて読ませる。このあたりはさすがの力量だと思う。
中盤過ぎからハナコさんという女性が登場する。これがなかなか魅力的な人で、兄弟とも意外な関わりがあったことが分かっていくのだが、そのへんは読んでのお楽しみだろう。
両親の過去とか、記憶にない女の子とかミステリっぽい要素も感じられ、そのあたりはきっちりと解明される。しかし "夏服の少女" を含めて、最終的にはファンタジーとして着地する。
ストーリーは決着しても、兄弟とハナコさんの物語はこれからも続いていくことを予感させる。続編を書く予定はないみたいだけど、短編でもいいから三人の "その後" が知りたいな。
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