護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧



護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧(新潮文庫)

護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧(新潮文庫)



  • 作者: 時武里帆

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2022/02/28









評価:★★★☆





 海上自衛隊の早乙女碧・二等海佐は、ヘリコプター搭載型護衛艦「あおぎり」の艦長を拝命する。

 呉港に停泊中の「あおぎり」に乗艦し、訓練航海への出港準備が進む中、乗員の一人が定刻までに艦へ戻っていないことが判明する。

 艦長としての判断力と決断力を問われる碧。このまま出港すべきか、捜索のために出港を遅らせるべきか。新任艦長として、これからも「あおぎり」の指揮を執っていくことを考えるなら、どんな選択がベストなのか・・・



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 早乙女碧(さおとめ・みどり)二佐は44歳。一年間の練習艦の艦長を経て五年間のデスクワークに就いた後、ヘリ搭載型護衛艦「あおぎり」艦長として二度目の指揮を執ることに。



 前任艦長との引き継ぎを終え、呉港に停泊中の「あおぎり」へ乗艦する碧。

 幹部士官、上級士官たちとの顔合わせ、艦内各部署の巡視点検、そして女性自衛官のグループである WAVE との交流。女性が増えたとはいえ、まだまだ男性優位社会の中にあって、女性隊員の活躍の場を増やしていくことも碧の目指すところだ。

 ちなみに WAVE とは、第二次大戦時に成立した女性組織 WAVES (Women Accepted for Volunteer Service)が語源らしい。



 文庫で300ページほどの本書に於いて、前半150ページほどは碧の着任から始まり、訓練航海への出港準備に追われる艦内の様子の描写が延々と続く。



 ここ、好きな人にはたまらないシーンの連続なのだと思うが、そこまで護衛艦に詳しくなかったり興味が湧かない人にとっては、いささか冗長に感じるかも知れない(でもまあ、そのあたりに全く関心がない人はそもそも本書を手に取ることはないだろうけど)。



 私も "自衛隊もの" や "ミリタリーもの" は好きでけっこう読んでいるのだけど、それでも本書の前半部はちょっと長いかなぁとは思った。私はそこそこ楽しんだけど、このあたりで脱落してしまう人は一定数いるかもしれない。



 それでも、退職希望を胸に抱いている砲術士官の坂上(さかがみ)三尉、"癖のある" と評される強面の副長兼砲雷長・暮林(くればやし)三佐、WAVE の最先任である岬(みさき)二曹など、後半で重要な役回りをするキャラたちの紹介も織り込んである。



 さらにそれらの合間には、碧自身の過去の回想も織り込まれていく。防衛大ではなく一般大から自衛官を目指した二十代から、現在に至るまでに辿ってきた半生について、さまざまな想いが去来していく。



 そして後半に入ると、一人の女性隊員が未帰艦となったことで、俄然物語はスピードアップしていく。

 内海佳美(うつみ・よしみ)三曹。26歳の電測員で技能は優秀、勤務態度も真面目な隊員だった。しかし、帰艦期限時刻を過ぎても姿を現さない。

 事件か事故か。自らの意思なのか、何らかの事態に巻き込まれたのか。さまざまな可能性が疑われる中、出港時刻は迫ってくる。



 隊員一人が欠けたまま出港しても、訓練航海自体に支障はない。しかし今後、艦長として「あおぎり」の指揮を執り続けるのなら、その選択は果たしてベストなのか。

 新任艦長である碧が下した決断は・・・





 ”護衛艦の新任艦長” がテーマなだけに登場人物は多い。上に挙げた意外にも、出番は少ないながら印象に残るキャラが二人いる。

 まずは「あおぎり」の僚艦となる「おいらせ」の艦長・小野寺。彼は碧の候補生時代の同期。登場シーンはわずかだが、ストーリー展開上、実に ”良い仕事” をする。

 そして終盤に登場する晴山芽衣(はれやま・めい)三佐。彼女は「あおぎり」の新飛行長として着任予定の人物なのだが、豪快なのか鈍感なのかよく分からない(笑)。女性艦長と女性飛行長でコンビを組むことになるが(当然ながらマスコミの注目も集める)、性格は対照的だ。この取り合わせも面白い。





 舞台が自衛隊となっても、組織の中で責任を持たされた者の奮闘を描くという点では、一般的な "お仕事小説" と変わるところはない。さらに男性優位な組織の中での女性リーダーと云うことで、二重の意味で "失敗は許されない" プレッシャーがヒロインを襲う。

 しかし、じっくり事態を見極めて、一度決断した後は揺らぐことはない。そんな碧の姿は読者の好感を以て受け止められるだろう。



 まだ出港する前からトラブル発生で、碧はその処理にてんてこ舞いとなる。本書は、ほとんどのシーンが「あおぎり」艦内と呉の市街地で進行する。

 未帰艦事件自体は本書で一区切りがつくが、それ以外は持ち越された案件も多く、ストーリーは次巻にそのまま連続するようだ。そこではいよいよ航海の様子が描かれていく。



 その次巻『試練 ー護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧ー』も手元にあるので、近々読む予定。





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